2012 Fiscal Year Annual Research Report
Cognitive and social influences on lay judges' decision processes
Project Area | Law and Human Behavior |
Project/Area Number |
23101008
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊東 裕司 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (70151545)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 裁判員 / 事実認定 / 判断バイアス / 模擬裁判員実験 / 情動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1.裁判関係者に対するヒアリングなどを通しての、裁判員の判断に影響を与えると考えられる要因の洗い出し、2.模擬裁判員実験を通しての裁判員の判断に関する心理学的検討、3.これらの成果の法実務への応用、の3つの段階からなるサイクルを複数回すことによって研究を進めている。本年度は、まず2に関して、殺人事件において、被告側が正当防衛を主張し、それが認められるかが争点となっている事案の模擬裁判ビデオを用いて、怒りなどのネガティブな感情が有罪・無罪の判断に与える影響について実験を行った。その結果、模擬裁判員が怒りっぽい特性を持つほど、裁判ビデオの提示により被告人に強い怒りを覚え、そのことが有罪判断をもたらす傾向があること、逆に被告人に対する同情に関しては、有罪であると判断することが同情の程度を減少させていることが示唆された。 これらの結果を3につなげるために心理学者と法律学者による研究会、法実務家や一般市民に向けたシンポジウムなどを行い、研究成果の応用を目指す議論を行った。この議論からは、裁判員裁判において有罪・無罪など事実認定の手続きと量刑判断の手続きを分離すべきであるとする、手続き二分を制度、あるいは運用として取り入れるべきであるとする法律学者の議論を支持する可能性が示された。しかし一方で、実際の裁判員裁判における裁判員の判断の仕方が実験参加者と同様のものであるのかについて疑問の余地があることも指摘された。この点に関しては、今後裁判関係者のヒアリングなどを通して検討する予定である。 また、上記のシンポジウムにおいて、1の裁判員の判断に影響する要因の洗い出しのための質問紙調査を行ったが、その分析は現在進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に作成した材料(模擬裁判ビデオ)を用いて実験を行い、興味深い結果を得た。また、2月に心理学者と法律学者による研究会を、3月に法実務家、一般市民向けのシンポジウムを開催するなど、研究成果の研究者、一般市民に向けての発信を行い、さらに法律学者、法実務家、一般市民などから研究に関するフィードバック、意見を得ることができた。一方で、学会大会での発表、専門誌への論文投稿については今後急ぎ行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、模擬裁判員の個人的な判断について検討を行ってきたが、現実の裁判員は裁判官と複数の裁判員との評議を通して集団で判断を行っている。本年度以降の研究では、評議の過程を実験的検討の中に取り入れ、より現実に近い形で裁判員の判断におけるバイアスについて検討を行う。また、これまで同様に裁判員の判断におけるバイアスの要因の洗い出しを行うために、法実務家などに対するヒアリングも継続する。 心理学実験から得られた知見を、実際の裁判員裁判の中で生かすために、法律学者、法実務家などとの議論の機会を、今まで以上に持ちたいと考えている。
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