2014 Fiscal Year Annual Research Report
裁判員の判断過程に影響する認知的、および社会的影響に関する研究
Project Area | Law and Human Behavior |
Project/Area Number |
23101008
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊東 裕司 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (70151545)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 事実認定 / 被害者の意見陳述 / 感情 / 説示 / 裁判員裁判 / 模擬裁判実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
手続き二分のされていない日本の裁判員裁判において、裁判員の事実認定判断は、量刑判断のための証拠などによる不適切な影響を受ける可能性がある。我々の研究室で行われた一連の模擬裁判実験による研究からは、被害者遺族の意見陳述が模擬裁判員の有罪無罪判断に影響を与えること、この影響が裁判官による説示などにより、容易には除去できないことが示されてきた。本年度の研究においては、特に審理において被害者遺族の意見陳述に接してからの時間の経過がその影響を減少させるかどうかについて、模擬裁判実験を通して検討した。模擬裁判実験では、被告人の犯人性が争われている架空の事案を用いて、約140名の模擬裁判員に裁判の概要を示し、有罪無罪判断、証拠の証明力の評定、感情の状態などについて質問紙に回答してもらった。その際、被害者遺族の意見陳述の有無、審理終了(意見陳述への接触)から裁判員としての判断までの時間経過(直後、あるいは1時間後)、判断時に審理の際の自身の感情を振り返るかどうか、などを操作した。 実験の結果、実験条件による有罪無罪の判断率、被告人・被害者に対する感情、全体的なネガティブ感情、量刑判断における違いは見られなかった。すなわち被害者遺族の意見陳述も、時間の経過も、模擬裁判員の感情や事実認定判断に影響を与えなかった。ただし、意見陳述の効果が見られなかったのは、裁判概要内で示された殺害の状況の記述などがネガティブ感情を引き起こし、意見陳述の効果を覆い隠してしまったためかもしれない。そうであれば、1時間程度の遅延は感情喚起による有罪無罪判断の歪みに対して、これを除去、あるいは減少する効果を持たないことになる。逆に、この実験状況においては、被害者遺族の意見陳述は裁判員の感情や事実認定判断に不適切な影響を与えないことを示す結果かもしれない。これらの可能性については引き続き検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画においては、裁判員の判断における心理的問題について模擬裁判実験を通して検討し、その成果を法学研究者、本実務家などに発信し、議論を経て法実務に関する提言を行うとともに、さらなる実証研究の課題を見つけ出すことを目指している。しかし今回の実験において、被害者遺族の意見陳述が模擬裁判員の感情や有罪無罪判断に影響を与えないという予想外の結果が得られた。そのため、結果の解釈に二通りの可能性が存在し、しっかりとした解釈に基づいた成果を法学研究者、法実務家に示すことができず、法実務に関する十分な議論、提言などを行うに至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
裁判員裁判における証拠などの提示の感情への影響や、感情を介しての判断への影響に関しては、生理指標などを用いて裁判概要提示時の感情変化をモニターするなど、これまでとは異なる方法を取り入れた実験を行う予定である。これにより、先に述べた結果の二通りの解釈の可能性について検討し可能性を絞り、その検討結果をもとに法実務家や法学研究者との意見交換を行い、裁判員裁判のより望ましい運用について提言を行いたい。 また、感情以外の要因も考慮して、さらに模擬裁判実験を行い、こちらについても実務的な提言につなげたい。
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