2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Particles Physics opening up the Tera-scale horizon using LHC |
Project/Area Number |
23104002
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
徳宿 克夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (80207547)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
受川 史彦 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 教授 (10312795)
海野 義信 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40151956)
|
Project Period (FY) |
2011-07-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 素粒子実験 / ヒッグス粒子 / 標準理論 / ピクセル検出器 / 耐放射線検出器 |
Research Abstract |
本研究では、LHCでの国際協力で建設されたアトラス検出器を用いてヒッグス粒子を発見し、ゲージ対称性の破れと質量の起源の謎の解明を目指す。 世界最高エネルギーの陽子・陽子衝突型加速器LHCは、重心系エネルギー7TeV及び8TeVで、それぞれ積算ルミノシティ約5、23fb-1のデータを収集した後、加速器の改造のために2013年春から2015年春までの長期シャットダウンに入った。このため、今年度の研究活動は、これまでに収集したデータの解析と、次の実験のための準備が中心となった。 既に前年度までの解析で、質量126GeVの新粒子を発見し、ヒッグス粒子としてほぼ同定していたが、スピン・パリティなどの解析結果、及び崩壊モード毎の生成断面積の測定結果を論文として2013年7月に投稿し10月に雑誌に掲載できた。発見した粒子は、標準理論のヒッグス粒子の振る舞いと誤差の範囲内で一致し、スピン・パリティもほぼ0+と確定できた。ヒッグス粒子の崩壊過程としてτ粒子対やbクォーク対への崩壊の探索を進めた。これらはヒッグス粒子がフェルミ粒子と結合することを示す直接証拠となるため重要である。bクォーク対への崩壊はこれまで得られたデータ量では十分な感度が出ないが、τ対崩壊に関しては11月に暫定結果を発表し、この崩壊を4.1σの有意性で確認できた。一方で、μ対への崩壊が、標準理論の予想通り、現在の感度では観測されないことも確認した。この粒子が、μとτを区別していることがわかり、ヒッグス粒子の特性を強固に示していることが確認できた。 一方で、ピクセル検出器の開発も順調に進んでおり、放射線損傷に弱い箇所を同定でき、それを避ける設計が有効であることが確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヒッグス粒子の発見を当初の予想より短期間に達成できた。この発見が、2理論研究者が2013年ノーベル物理学賞を受賞する上での大きな論拠となった。ヒッグス粒子の性質の精査が進み、現在までの所の解析では、標準理論の予言する性質と矛盾ないことを確認できている。 ヒッグス粒子の発見とその質量の確定は、素粒子研究にとどまらず、宇宙初期のインフレーションとの関連、ダークエネルギーとの関連等、おおくの「夢」を含んだ、素粒子・宇宙論の構築を活性化し、多くのモデルが提唱された。実験的にも次項で述べるように次の探索への方向を明確にできるようになった。 また、ヒッグス発見のニュースは、一般新聞・テレビでも大きく取り上げられ、基礎科学に関する一般の人の興味を強くかき立て、多くの一般講演や高校生・中学生への講演を進めることができた。 ピクセル検出器の研究開発も順調に進んでおり、昨年度までの大きな問題の一つであった、放射線照射後にバイアスレール付近で粒子検出効率が落ちる点に関して、素子レイアウトを変えることによって回避することができ、将来の高輝度ランで使用できることを明らかにしたことも大きな成果となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今回発見したヒッグス粒子は、現在までの分析では、標準理論の予言する粒子とほぼ一致していることがわかったが、そもそもヒッグス場が標準理論に導入される仕方はかなり恣意的であり、なぜヒッグス場が存在するかはわからない。発見に至ったこれからは、この粒子の精査を通して、この問いに対するヒントがないかをしらべることが中心課題となる。 一つの方向は、これが唯一のヒッグス粒子であるかの確認で、多くの標準理論を超えるモデルでは、複数のヒッグス粒子が存在したり、ヒッグスと特殊に結合する新粒子の存在が提案されている。これらのヒッグス粒子は、標準理論のヒッグス粒子とは異なった生成断面積・崩壊分岐比を持つので、いっそう広い範囲で、標準理論にとらわれない新粒子の探索を進めるのが一つの方向である。これは、これまで収集したデータからの再解析もあるし、2015年からのデータでの探索(とその準備)も重要になる。 もう一つの報告は、126GeVのヒッグス粒子の性質の精査である。これまでわかったことは、この粒子が、光子、W,Z、τ粒子対に崩壊することであり、μ対やbクォーク対に異常に高い分岐比は持っていないということである。解析の感度を上げることと、2015年からのデータを加えることで、さらに高い精度で測定を進めていく。 ピクセル検出器開発では、現在残っている一番の課題となった、放射線損傷時の高バイアス電圧に耐えることができるような絶縁方法の確立と、薄いセンサーと読み出しチップとの安定したバンプボンディングを達成することが今後の重要な課題となった。
|