2012 Fiscal Year Annual Research Report
Spin transport and catalytic reactions in the boundary regions
Project Area | Frontier of Materials, Life and Elementary Particle Science Explored by Ultra Slow Muon Microscope |
Project/Area Number |
23108003
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
鳥養 映子 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (20188832)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朝倉 清高 北海道大学, 触媒化学研究センター, 教授 (60175164)
杉山 純 株式会社豊田中央研究所, 分析研究部・ナノ解析研究室, 研究員 (40374087)
菅原 洋子 北里大学, 理学部, 教授 (10167455)
下村 浩一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (60242103)
吉野 淳二 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90158486)
永嶺 謙忠 独立行政法人理化学研究所, 山崎原子物理研究室, 研究員 (50010947)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 超低速ミュオン / スピントロニクス / 触媒化学 / 電池材料 / 生体物質 / スピン伝導 / イオン伝導 / 電子伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本計画班は、伝導と反応を伴う諸現象の機構を、「動的過程を伴う相互作用のスピン選択性」という統一的な視点から解明する新しい融合分野の開拓を目指す。次の4つのモデルシステムについて、超低速ミュオン顕微鏡を用いて内在するスピンの時間発展を観測するための準備研究を進めた。 1、界面近傍におけるスピン伝導:Si中の直接励起伝導電子スピン偏極計測及びGaAs中の負ミュオニウムの伝導電子スピン偏極依存性に関する理論研究で新しい発見があった。普遍的スピン注入のための偏極加速電子銃の開発を進めた。走査トンネル顕微鏡により、磁性半導体界面の形成過程とその超格子構造の磁気特性の構造依存性から、低温で発現する強磁性の発現機構を明らかにした。 2、触媒化学反応:格子欠陥にトラップされた電子やホールの動的挙動を解明して触媒作用の機構を解明するために、予備研究として、光触媒材料TiO2について酸素欠陥を制御した試料について次の基礎データを蓄積した。アナトース粉末結晶におけるミュオン緩和率の粒径(表面積/体積比)依存性及びルチル単結晶の還元処理効果。 3、電気化学を担うイオン伝導:各種電池材料(正極・電解質・負極)について、ミュオンスピン緩和測定により拡散挙動を調べ、材料本来のLi拡散係数を求め、他の手段と比較してキャリア濃度と電極の反応面積を導く手法を定量的に示した。NaxCoO2系のNa拡散、磁石材料の内部磁気構造、水素貯蔵材料の水素脱離挙動の測定に道を拓いた。 4、生命反応を司る電子伝達:シトクロムc中の電子伝達の水和構造依存性を調べ、水分子による分子間伝達の促進を見出した。緩衝液やアルブミン蛋白質等の水溶液中において、ミュオニウムのスピン緩和が純粋中と同様に酸素の混入により敏感に変化することを示した。シトクロムcの中性子構造解析により、酸化還元反応を担うヘム近傍の水和構造の解明を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超低速ミュオン顕微鏡(USMM)開発によって初めて実験研究が可能となる4つのモデルシステム全てに関して、既存のミュオン施設や実験装置を用いた予備実験を行い、基礎データを蓄積することができた。USMM用の試料作成、USMMに連結する試料準備装置の概念設計が進展し、関連する研究が順調に進んでいる。理論研究者らの協力により、表面近傍や欠陥におけるミュオンの状態や挙動のシミュレーション、計測原理の解明を進めることができた。これまでミュオンの応用が進んでいない触媒、構造生命科学の2分野で、関心を持つ研究者や、研究協力者が倍増した。 1、界面近傍におけるスピン伝導:GaAsからより一般的なSiに進めることが出来ている。また超低速ミュオンが威力を発すると期待される偏極電子銃が整備されつつある。光、磁性体、熱勾配等を用いる各種スピン注入の方法も順調に準備が進んでいる。薄膜試料のSTMによる基礎研究も進んでいる。 2、触媒化学反応:超低速ミュオンが立ち上がるまで、対象であるTiO2やSnO2などのキャラクタリゼーションを行い、欠陥の構造情報をできるだけ取得した。 3、電気化学を担うイオン伝導:各種電池材料のバルクや薄膜について、ミュオンスピン緩和測定により、イオン拡散挙動を明らかにしている。 4、生命反応を司る電子伝達:既存のミュオンビームを用いた実験により、電子伝達に関わる蛋白質について電子の振る舞いに含水量依存性がみられることを確認、また、水中の溶存酸素の反応を水中ミュオニウムのスピン緩和により高感度に検出できることを見出すなど着実な成果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画通り平成25年度の超低速ミュオン顕微鏡による実験開始に向けて、前半は各種試料の基礎物性測定とミュオン予備実験を進めるとともに、本顕微鏡に接続する触媒反応チャンバー・生命科学実験装置を概念設計に基づき完成させる。平成25年8月~26年1月の加速器停止期間後に、超低速ミュオンを用いた本格実験を開始する予定である。平成26年度~27年度にかけて、超低速ミュオン部の性能(強度、深さ方向分解能、周辺装置性能等)及びマイクロビーム部の開発状況に合わせて、ピークを出す研究と、新たな応用分野の開拓を目指す研究のバランスを領域全体で議論し、他の計画班とも連携しながら進める。4つのモデルシステムにおける平成25年度の主な研究目標は次のとおりである。 1、界面近傍におけるスピン伝導:Siの光励起スピン偏極伝導電子のミュオニウムスピン交換反応による研究、偏極電子銃本体及び専用ミュエスアール実験装置の開発・製作。薄膜スピントロニクス材料中のスピン流の研究。 2、触媒化学反応:通常のミュオン実験に加え、レーザー照射ミュオン実験による光触媒材料中の格子欠陥の予備的研究、及び第一原理計算結果との比較によるミュオンの電子状態の道程。触媒反応チャンバーを用いて欠陥を制御した材料のミュオンによるキャラクタリゼーションと触媒反応性の研究。 3、電気化学を担うイオン伝導:薄膜試料による低速ミュオン実験・β-NMR実験によるLiイオンの拡散挙動の研究、多層膜中のLi分布測定。 4、生命反応を司る電子伝達:蛋白質、DNA、生体物質中の電子伝達関連物質における、水和水の調整や水素をD化した試料についての実験研究。
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Research Products
(51 results)