2012 Fiscal Year Annual Research Report
Golgi stress response and glycosylation in neural function
Project Area | Deciphering sugar chain-based signals regulating integrative neuronal functions |
Project/Area Number |
23110007
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
吉田 秀郎 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60378528)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 細胞生物学 / 神経 / 糖鎖 / オルガネラ / ゴルジ体 / 小胞体 / ストレス応答 / 小胞輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質に付加されている糖鎖は、神経機能に重要な役割を果たしている。本研究課題では、ゴルジ体の量的調節機構であるゴルジ体ストレス応答に注目し、糖鎖シグナルが神経機能に果たす役割について解析する。研究代表者はゴルジ体ストレス応答の専門家であり、領域内の糖鎖研究の専門家と神経研究の専門家との共同研究を行うことによって、この難題を解明する計画である。 研究代表者は、細胞の需要に応じてゴルジ体の機能を強化するゴルジ体ストレス応答の機構を研究し、ゴルジ体ストレス応答を制御する転写因子TFE3を単離した。平常時はTFE3はリン酸化されることによって細胞質に繋留されているが、ゴルジ体ストレス時(ゴルジ体の機能が不足した状態)ではTFE3は脱リン酸化されて核へ移行し、転写制御配列GASEに結合してゴルジ体関連遺伝子の転写を活性化する。しかしながら、ゴルジ体ストレスの分子的実体については未解明のままであった。糖鎖修飾の阻害剤を用いた前年度までの研究によって、ゴルジ体での糖鎖修飾の不全がゴルジ体ストレスの惹起に重要であることを見いだした。今年度は、ゴルジ体でのシアル酸付加が不全な変異細胞やプロテオグリカンの糖鎖修飾が不全な変異細胞を用いた実験から、上記の結果を確認することができた。また、TFE3をリン酸化するリン酸化酵素をsiRNAライブラリーを用いて検索したところ、CKIαの発現を低下させるとTFE3の脱リン酸化が起こることを見出した。また、グリア細胞であるオリゴデンドロサイトの分化過程でもゴルジ体ストレス応答が活性化されることを見出した。これらのことは、神経関連細胞の分化過程において糖鎖シグナルを介したゴルジ体ストレス応答が活性化されており、分化に何らかの貢献をしていることが想像される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目標は、ゴルジ体ストレス応答の研究を通じて、糖鎖シグナルが神経機能に果たす役割を明らかにすることである。今年度までの研究によって、糖鎖シグナルがゴルジ体ストレス応答の制御に重要な機能を果たしていることを明らかにした。また、ゴルジ体ストレス応答によって様々な糖鎖修飾遺伝子の発現が活性化されることを明らかにした。以上の結果は、糖鎖シグナルとゴルジ体ストレス応答との密接な関係を示している。更に、アストロサイトやオリゴデンドロサイトのようなグリア細胞の分化過程でゴルジ体ストレス応答が活性化されることも明らかにした。この知見は、糖鎖シグナルがゴルジ体ストレス応答という生体応答機構を通じて神経系の細胞機能に重要な役割を果たしていることを示唆するものであるが、まだ直接的な貢献を明らかにはできていない。特に、ゴルジ体ストレス応答が神経系の細胞の機能に重要であるかどうか、糖鎖修飾自体が神経機能に重要であるのかどうか(ゴルジ体ストレス応答に限定した範囲で)を明らかにすることが必要であると考える。また、現在解析が成功しているのはC6細胞を用いたグリア細胞分化の実験系だけであり、C6細胞以外のグリア細胞分化系での確認実験も必要であるし、グリア細胞ではなく神経細胞分化の実験系を用いて「糖鎖とゴルジ体ストレス応答と神経細胞分化」の関係についても解析する必要がある。更に、神経系細胞分化のどのような分子的変化とゴルジ体ストレス応答が関連しているのか、換言すれば、神経系の細胞分化において膜タンパク質の合成が増加して糖鎖修飾酵素が不足することがゴルジ体ストレス応答を引き起こしているのか、あるいは樹状突起などを形成することによって膜輸送が盛んになり、ゴルジ体での膜輸送能力が不足するためにゴルジ体ストレス応答が活性化されているのかについても全く不明である。今後はこれらの観点から研究を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
グリア細胞の分化過程でゴルジ体ストレス応答が活性化されることは見出したが、ゴルジ体ストレス応答が活性化されることがどの程度グリア細胞の分化に貢献しているかについては明らかでない。そこで、ゴルジ体ストレス応答の制御因子であるTFE3やCKIαの発現をsiRNAを用いて抑制し、グリア細胞分化にどのような変化が見られるか、グリア細胞の形態や分子マーカー(GFAPやPLP)の発現を調べることによって解析する。また、C6細胞以外のグリア細胞の分化系や、PC12細胞などの神経細胞の分化系でも同様の解析を行うことで、グリア細胞や神経細胞の分化過程にゴルジ体ストレス応答がどの程度貢献しているのか明らかにしたいと考えている。 また、糖鎖修飾がグリア細胞や神経細胞の分化過程に果たす役割を調べるために、HPLCと質量分析計を用いた糖鎖の網羅的解析を行って、分化の前後でどのような糖鎖修飾の変化が見られるか解析する。TFE3の発現を抑制した細胞でも同様の糖鎖修飾解析を行い、ゴルジ体ストレス応答によってサポートされている糖鎖修飾変化を同定する。また、特定の糖鎖修飾を阻害剤を用いて阻害した時、細胞分化にどのような影響が出るか解析する。 更に、グリア細胞分化においてゴルジ体ストレス応答が活性化されることは明らかになったが、グリア細胞・神経細胞分化によってどのような分子的変化(糖鎖修飾酵素の不足や小胞輸送能力の不足など)が起こることでゴルジ体ストレス応答が惹起されているのかも不明である。そこで、膜の伸長を誘導するタンパク質であるprotrudinをC6細胞やHeLa細胞に発現させることで膜伸長を誘導し、その時にゴルジ体ストレス応答が活性化されるかどうかを調べることによって、この問題を解決する突破口を開きたいと考えている。これらの解析を通じて、「糖鎖―ゴルジ体ストレス応答―神経機能」の関係を明らかにしたい。
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Research Products
(10 results)