2011 Fiscal Year Annual Research Report
異種ゲノムの不適合性が引き起す雑種の不妊・発育不全現象の遺伝的制御機構
Project Area | Correlative gene system: establishing next-generation genetics |
Project/Area Number |
23113004
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松田 洋一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70165835)
|
Keywords | 哺乳類 / 鳥類 / 雑種 / 不妊 / 胚性致死 / 発育不全 / 染色体対合 / ゲノムインプリンティング |
Research Abstract |
Phodopus属のキャンベルハムスターとジャンガリアンハムスターのF1雑種は雄が不妊となる。雑種個体の精巣における減数分裂の細胞遺伝学的解析を行い、この種間雑種に見られる雄特異的な不妊現象の主たる要因が、第一減数分裂におけるX-Y染色体間の対合異常によって引き起こされる第一精母細胞のアポトーシスであることを明らかにした。さらに、精原細胞の増殖と精母細胞への分化を抑制する雑種不妊遺伝子の存在や精子の形態形成に関わる遺伝子の不適合性も不妊の原因である可能性を見出した。 また、これら2種間のF1雑種では、両親の雌雄の組合せによって、胎児と胎盤の表現型に大きな違いが見られる。キャンベルハムスター雌を交配に用いた場合、F1雑種の胎児と胎盤の成長は抑制されるのに対し、ジャンガリアンハムスターの雌から得られる雑種では、顕著な胎児の過成長と胎盤の肥大が観察された。そこで、胎児や胎盤の成長に関わるインプリント遺伝子であるPeg3とMeg1/Grb10遺伝子の発現を調べた結果、過成長した胎児と肥大した胎盤では、片親性発現ではなく両親性発現を示したことから、両親の雌雄の組合せによるF1胎児と胎盤の表現型の違いは、ゲノムインプリンティングによる遺伝子の発現制御の異常に起因することが示唆された。 ウズラ卵とニワトリ精子の人工授精で得られた胚が致死となることに着目し、3,5,7日胚について形態観察を行った結果、受精率は31%であり、そのうち21%(全体の6.5%)が7日胚まで生存した。DNAを用いた性別判定を行った結果、生存胚の90%がZZ型性染色体構成をもつ雄であった。これらの結果から、ウズラ-ニワトリ間のF1雑種胚のほとんどが7日までに死亡し、そして雌が選択的に致死になることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
キャンベルハムスターとジャンガリアンハムスターのF1雑種の雄性不妊が、第一減数分裂におけるX-Y染色体の対合異常によって引き起こされることを解明したことは大きな研究成果ではあるが、染色体対合に関わるシナプトネマ構造抗体や遺伝的組換えタンパク質の分布などの分子細胞学的な解析にはまだ至っていない。 これらのハムスターの交配において、両親の雌雄の組み合わせによって雑種胎児と胎盤の成長に大きな違いが見られる現象が、ゲノムインプリンティングに関わる遺伝子の発現制御の異常であることを見出したことは大きな発見であるが、さらに多くにインプリント遺伝子の解析を行うことによって、その可能性を確かめる必要がある。 ニワトリーウズラの雑種胚の解析では、3,5,7日胚の形態観察によって、胚性致死が起こる時期やその性比を明らかにすることができ、今後の本格的な解析を開始するための基礎情報を得ることができた。今後は、胚性致死や致死率の性差を引き起こすメカニズムとその分子基盤を解明する必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
Phodopus属ハムスターのF1雑種の雄性不妊の主要因である染色体対合異常のメカニズムを解明するために、今後は、シナプトネマ構造抗体や遺伝的組換えタンパク質抗体を用いた免疫染色によって、第一精母細胞前期における染色体対合と組換えタンパク質の分布を調べ、雑種の不妊を引き起こす分子細胞学的要因を明らかにする。 異なる2種のハムスターの交配において、両親の種の雌雄の組み合わせによって、胎児と胎盤の成長に大きな違いが生じる要因として、インプリント遺伝子の発現制御機構の異常である可能性を示唆するデータを得た。今後は、この可能性を立証するために、胎児や胎盤の成長に関わる多くのインプリント遺伝子について発現解析を行うとともに、発現異常を示す遺伝子のDNAメチル化の状態を明らかにすることによって、雑種の発育不全を引き起こすエピジェネティックな遺伝子発現制御機構とその分子基盤の解明を試みる。 ニワトリ-ウズラ間の雑種における早期の胚性致死と致死率の雌雄差を引き起こす要因が、雑種胚における遺伝子の発現異常か、あるいは異なる種由来の染色体及びZZ/ ZW性染色体の分離異常(染色体の不分離)かを確認する必要がある。後者の可能性を確認するために、ニワトリ由来の染色体特異的なDNAプローブを用いて、FISH法による染色体ペインティング解析を行い、染色体の不分離が生じるか否か、生じる場合にはどちらの種由来の染色体に不分離が生じるかを明らかにし、胚性致死を引き起こす細胞遺伝学的要因の有無を明らかにする。さらに、今後は次世代シーケンサーを用いた発現遺伝子の網羅的解析によって、種特異的に発現量が異なる細胞分裂・発生関連遺伝子や性染色体連鎖遺伝子を捉え、それらの機能を明らかにすることによって、雑種胚が致死になる分子メカニズムの解明を試みる。
|
Research Products
(8 results)