2023 Fiscal Year Annual Research Report
異常アミノ酸含有天然物類縁体ライブラリー構築による化合物潜在空間探索
Project Area | Latent Chemical Space Based on Diverse Natural Products for Bio-active Molecular Design |
Project/Area Number |
23H04889
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 寛晃 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (20758205)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 天然物有機化学 / 化合物ライブラリー / 固相合成 / ペプチド / 全合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、非タンパク質構成アミノ酸(異常アミノ酸)を多数含むペプチド系複雑天然物類縁体群で構成される分子ライブラリーを構築・評価する。構成単位をランダムに改変して構造多様化し、異常アミノ酸含有構造群の化合物資源としての拡充を実現する。また、基盤とする構造の簡略化・改変により、新規生物活性分子の創出、生体機能制御の応用へと繋げる。 今期は、まずα,β-不飽和アミノ酸や多数の金属結合性官能基を有するペプチド系複雑天然物ロイヒケリンCについて、研究を展開した。独自に最適化した方法論に基づくα,β-不飽和アミノ酸の配列への導入に加えて、金属結合性官能基に対して新たな保護基およびリンカー戦略を確立し、ロイヒケリンCおよび類縁体群の統一的な合成を実現した。さらに、本分子群を利用した詳細な機能解析へと展開し、ロイヒケリンCの持つ金属相互作用能に関して新規の知見を得た。 また、脂質二重膜内でイオンチャネルを形成し、抗菌活性などの多様な生物活性を示すペプチド系天然物グラミシジンAについて、生物活性に重要なトリプトファンを位置異性体で置換した類縁体群を固相合成によって統一的に得ることに成功した。また、これらの類縁体について、多様な脂質で構成されるリポソームにおけるイオンチャネル形成能、抗菌活性、哺乳細胞毒性および溶血活性を評価した。その結果、天然物よりも優れた抗菌活性を示す類縁体を発見した。また、トリプトファン以外の疎水性アミノ酸残基についてさらなる構造最適化を行い、当該化合物の哺乳細胞毒性・溶血活性を効果的に低減することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を遂行する中で、次のような重要な進展があった。 (1)異常アミノ酸の一種であるα,β-不飽和アミノ酸と多数の金属結合性官能基を有するペプチド系複雑天然物ロイヒケリンCは、鉄イオンと相互作用することが知られているものの、天然からの供給は困難であり、詳細な分子機能については不明であった。本研究では、無痕跡型Staudingerライゲーションによるα,β-不飽和アミノ酸構造の導入と、金属結合性官能基に対する保護基とリンカー戦略を新たに確立することで、類縁体群の効率的な固相合成を初めて達成した。本法は、類似の構造特性を持つ他の天然物合成にも応用可能である。また、合成的方法論の確立によって迅速な分子供給が可能となり、ロイヒケリンCの金属相互作用に関する詳細な解析を初めて実現できた。 (2)グラミシジンAの機能に重要な役割を持つトリプトファン残基を天然には存在しない位置異性体へと置換した各類縁体について、統一的な合成を初めて実現した。本方法論は、トリプトファンを含有する他のペプチドに対しても応用可能である。また、強力な抗菌活性を保持しながら哺乳細胞毒性・溶血活性が低減された新規類縁体は、有用な活性特性を示す重要な新規構造基盤分子である。
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Strategy for Future Research Activity |
ロイヒケリンCおよび類縁体を対象としてさらなる分子機能解析および三次元構造解析を実施する。これにより、特異な機能を示す要因を解明することを目指す。 また、ロイヒケリンCの合成機能研究において得た知見を他のα,β-不飽和アミノ酸含有天然物や金属相互作用天然物へと展開し、異常アミノ酸含有ペプチド系複雑天然物の化合物資源としての拡充を図るとともに、類縁体合成と評価によって、それぞれの天然物の有する機能に必須となる構造要件を明らかにする。また、構造多様化の際にはジアステレオマーを含む類縁体ライブラリーの構築も試み、研究課題を推進する。
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