2014 Fiscal Year Annual Research Report
感応性高周期元素-遷移金属多重結合を有する金属錯体の創製と触媒機能
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
24109011
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
橋本 久子 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60291085)
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Project Period (FY) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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Keywords | ゲルマニウム / ケイ素 / 三重結合 / 鉄 / タングステン / 二重結合 / ヒドロシリル化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.ヒドリド(ジアルキルシリレン)鉄錯体の合成と触媒反応: 前年までにルテニウムのヒドリド(ジアルキルシリレン)錯体がベンゾフェノンのヒドロシリル化反応の触媒になることを見出した。そこで昨年度は,同族でルテニウムより安価で天然に豊富にある鉄を中心金属とする類縁錯体の合成を検討し,目的の錯体を単離することに成功した。この鉄錯体は重ベンゼンの炭素―重水素結合の活性化を伴い, アセトンのヒドロシリル化反応の触媒になることを見出した。 2.タングステン-ゲルマニウム三重結合錯体の新規合成法: 先にタングステン-ゲルマニウム三重結合化合物であるゲルミリン錯体を, ヒドリド(ヒドロゲルミレン)錯体からイソシアナートにより脱水素することで合成する方法を見出しているが, 今回, ヒドリド(ヒドロシリレン)錯体にNHCカルベンを反応させることで, プロトンおよびヒドリドとして水素を外しゲルミリン錯体を合成する新たな方法を開発した。この反応では, 中間体として新規なアニオン性ゲルミレン錯体が生成している。この中間体はFrustrated Lewis Pairと見なせるため, 今後の触媒反応開発の足がかりになると期待される。 3.タングステン―ケイ素三重結合錯体の合成: 上述したゲルミリン錯体の新規合成法を応用して, 嵩高いアルキル基を持つケイ素三重結合錯体(シリリン錯体)の単離に成功した。しかし, このアルキル置換シリリン錯体は非常に不安定で単離収率が低いため, 新しく嵩高いアリール基置換基を持つシリリン錯体の合成の研究も行った。その結果, シリリン錯体をイソカルボニル配位によって二量化した形で単離することに成功した。このシリリン錯体二量体は溶液中で単量体と解離平衡にあり,加熱により単量体に平衡が偏る。また,この錯体はジメチルアミノピリジンとの反応において単量体としてふるまうという知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分極した多重結合部位が活性点となって反応が進行する新しい触媒反応の開発を目指して研究を行っており,これまでに分極した二重結合を持つシリレン錯体では,ルテニウムおよび鉄を中心金属とする錯体においてベンゾフェノンやアセトンのヒドロシリル化反応が触媒的に進行することを見出した。この反応系は,触媒活性および触媒の汎用性の観点では,既知のヒドロシリル化反応の触媒系に比べて優れているわけではないが,分子構造が明確にされているシリレン錯体が触媒活性種になっており,反応機構の理解と今後の分子設計に重要な情報を提供するものとして評価できる。また,三重結合錯体合成の過程で,Frustrated Lewis Pairと見なせる二重結合錯体が生成することを新たに見出した。Frustrated Lewis Pairは,最近触媒設計の上で重要な化学種であり,このタイプの二重結合錯体をうまく利用した触媒反応の開発を目指した研究も今後行いたいと考えている。一方で,当初計画していたゲルマニウムの二重結合錯体と三重結合錯体の間での2つの水素のやり取りを利用した触媒的水素化反応の開発は現在のところ明確なルートを構築できていない。これらを総合すると,期待以上の成果まではいっていないが,おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年12月に,震災後避難していた仮設研究館から新しい建物に引越し,研究環境は整った。今年度は,前半は博士課程学生1名,修士課程学生2名,学部生2名が研究協力者の主力メンバーになり,10月からさらに2名が加わり研究を進める予定である。これらに加え,以前から行っている共同研究を継続することで,効率的に研究成果を出せるよう努めていく。 また,研究の方向としてと,新しく得られた知見を生かすため,当初の計画に少し修正を加えて,次の3つの方向で研究を推進する。 一つ目の方向は,二重結合錯体についての研究で,触媒反応が進行したシリレン錯体を用いて,ヒドロシリル化反応の触媒機構の解明と活性の向上,基質の適用範囲の拡大を目指して,さまざまなカルボニル化合物との反応を詳細に研究する。また,ルテニウムゲルミレン錯体では,触媒反応ではないが二酸化炭素とも比較的温和な条件で反応することが分かっているので,これを有用な化合物として取り出す方法の開発を目指す。 二つ目の方向は、三重結合錯体合成の過程で新たに見出したFrustrated Lewis Pair型の陰イオン性ゲルミレン錯体,あるいはシリレン錯体を生かした基質の活性化、それに基ずく触媒サイクルの構築を目指す。 三つ目の方向は,三重結合を持つゲルミリン錯体およびシリリン錯体を用いた小分子などの新しい活性化方法の開発を目指す。
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Research Products
(13 results)