2015 Fiscal Year Annual Research Report
感応性高周期元素-遷移金属多重結合を有する金属錯体の創製と触媒機能
Project Area | Stimuli-responsive Chemical Species for the Creation of Functional Molecules |
Project/Area Number |
24109011
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
橋本 久子 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60291085)
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Project Period (FY) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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Keywords | 合成化学 / 無機化学 / 錯体化学 / 触媒開発 / 高周期元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.アニオン性シリレン錯体の合成とh2-シラアルデヒド錯体の単離: ヒドリド(ヒドロシリレン)錯体からN-ヘテロサイクリックカルベンにより金属上の水素をヒドリドとして引き抜き,アニオン性のシリレン錯体の合成に成功した。これまでに中性やカチオン性のシリレン錯体の合成例はかなりあるが,アニオン性錯体の例は数が少ない。この錯体を用い酸素化反応を行ったところ,Si=O二重結合がh2-で配位した初めての例となるh2-シラアルデヒド錯体を単離し構造決定に成功した。京都大学の榊先生(A03班)との共同研究により,この錯体の結合についての理論的解析も行った。 2.タングステン―ケイ素三重結合錯体による[2+2]環化付加反応: 近畿大学の松尾研(A01班)との共同研究として,縮環した剛直なアリール置換基(Eind基)を持つシリリン錯体の合成に成功しているが,今回,不飽和有機化合物との反応を検討し, 錯体のW-Si三重結合部分とカルボジイミドやジアリールケトンのC=N やC=O結合との間で,[2+2]環化付加反応が起こることを明らかにした。ジアリールケトンとの反応では,2分子の基質が段階的に挿入し,炭素-水素結合切断と炭素―炭素結合形成を経て 6員環骨格を持つシロキシ錯体を与えた。このような反応はこれまで全く例がない。 3.ロジウムのカチオン性水素架橋ビス(シリレン)錯体の合成 : これまでに,タングステン,ルテニウムおよび鉄の水素架橋ビス(シリレン)錯体が様々な有機基質に高い反応性を示すことを明らかにしてきたが,化学量論反応にとどまっている。そこで,通常触媒として活性が高い9族金属を中心金属とする新しい水素架橋ビス(シリレン)錯体の合成に取り組んだ。種々検討した結果,ロジウムを用いてカチオン性の目的錯体を低温で発生させることに成功した。9族の金属中心を持つこのタイプの錯体として初めての例になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに,タングステン,ルテニウムおよび鉄のシリレン錯体(金属―ケイ素二重結合錯体)の合成と,それらの置換基が少し異なる誘導体の合成を行い,これらの錯体が様々な有機分子と選択的に反応することを明らかにしてきた。特に,中心金属が8族のルテニウムや鉄である金属錯体では,ベンゾフェノンやアセトンのヒドロシリル化反応が触媒的に進行することを見出している。また,触媒反応ではないが,これまでに合成した中性のタングステンシリレン錯体を原料として,珍しいアニオン性のシリレン錯体を合成し,この錯体を用いることで,中性のシリレン錯体では合成できなかったSi=O結合が金属にh2-配位したシラアルデヒド錯体の単離に初めて成功した。長年合成ターゲットとされてきた重要な化学種の一つである。また,ゲルマニウムの二重結合錯体の合成も進んでおり,シリレン錯体との反応性の類似点および相違点を明らかにしてきている。触媒反応の開発の点では,まだまだ十分な成果とは言い難いが,分子構造が明確にされているシリレン錯体あるいはゲルミレン錯体による新規反応の例は蓄積されてきている。これらの結果とその反応機構の考察は,今後の分子設計の重要な情報になっている。また,これまで合成が困難とされてきた三重結合錯体に関する研究では,近畿大学の松尾研(A01班)との共同研究を行い,金属―ケイ素間に三重結合を持つシリリン錯体を合成する方法をほぼ確立することができた。反応性の研究を進めており,現在のところ,C=OやC=N二重結合を持つ化合物との[2+2]環化付加反応などを見出している。今後,このタイプの三重結合錯体をうまく利用した基質の変換反応を開発したいと考えている。これらを総合すると,期待以上の成果まではいっていないが,おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,前半は博士課程学生1名,修士課程学生4名,学部生1名が研究協力者の主力メンバーになり,10月からさらに1名が加わり研究を進める予定である。これらに加え,近畿大学の松尾研(A01班)および京都大学の榊先生(A03班)との共同研究を継続することで,効率的に研究成果を出せるよう努めていく。また,研究の方向として,新しく得られた知見を生かすため,当初の計画に少し修正を加えて,以下の点に重点を置き研究を推進する。 一つ目として,ルテニウムのシリレン錯体を用いて,様々なカルボニル化合物との触媒的ヒドロシリル化反反応を詳細に研究する。触媒機構の解明とともに活性の向上,基質の適用範囲の拡大を目指す。また,置換基を微調整したルテニウムおよび鉄のゲルミレン錯体を合成し,それらとカルボニル化合物、二酸化炭素や小分子との反応を研究して,これを有用な化合物として取り出す方法の開発を目指す。 二つ目として,シリリン錯体の反応性の研究をさらに推進し,特に,ケトン,ヘテロクムレン,イミド,アルキンなどの不飽和有機分子とのメタセシス反応の開発を目指す。 三つ目として,ゲルミリン錯体あるいは水素架橋ビス(シリレン)錯体を用い、二酸化炭素の変換反応の開発を目指す。数気圧の水素圧下での反応を検討し、触媒反応への展開を検討する。
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Research Products
(16 results)