2013 Fiscal Year Annual Research Report
老化と病態によるリンパ器官の撹乱と免疫応答性の変容
Project Area | Analysis and synthesis of multi-dimensional immune organ network |
Project/Area Number |
24111008
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
湊 長博 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40137716)
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Project Period (FY) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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Keywords | 免疫老化 / 細胞老化 / T細胞老化 / 濾胞T細胞 / 全身性エリテマトーデス / 慢性炎症 / 糖尿病 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は加齢に伴う免疫系恒常性と応答性の変容を、免疫系機能の中枢にあるT細胞系に焦点を当てて解析し、免疫老化が個体の恒常性維持と病態発生に与える影響を明らかにすることを目的とする。本年度は、私達は発見報告した加齢に伴い発生し増加するユニークなT細胞集団 (Senescence-associated T cells, SA-T)について、引き続きその生理的・病理的役割、とくに全身性自己免疫病との関係について、詳細な検討を進めた。ループス(Systemic lupus erythematodes, SLE)に代表的される全身性自己免疫病は自発性濾胞胚中心反応を特徴とするが、ループス(BWF1)マウスにおいては、早期から胚中心においてSA-T細胞の著明な増加が見られた。同SA-T細胞の一部(CD153+ SA-T)は、自己のB細胞に特異的に反応して大量のオステオポンチン(OPN)を産生すること、OPNは胚中心内において自己反応生B細胞のアポトーシスを抑制することが明らかになった。さらに、ループス発症マウスからのCD153+ SA-T細胞を未発症若齢マウスに移入することにより、胚中心反応が誘導されることも確認された。最後に、抗OPN抗体をBWF1マウスに連続投与することにより、胚中心反応のみならず各種抗核抗体の産生および糸球体腎炎と尿蛋白の発現も有為に抑制されたことから、SA-Tがループスの病態発生に重要な役割を果たしていることが示された。 これらの結果は、T細胞老化に伴う機能変容が個体老化に関連する全身恒常性維持破綻の重要な背景要因となっていることを強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
免疫老化に起因すると想定されている主要な素因は、獲得免疫機能の低下、炎症性素因の増大、自己免疫リスクの増加であり、本研究の目的はこれらのメカニズムを解明してその制御に資することにある。私達が同定報告したSA-T細胞が、細胞老化に伴う細胞増殖性の喪失によって獲得免疫機能の低下にかかわることをこれまで報告してきたが、この細胞が加齢に伴う自己免疫リスクの増加に関与するか否かが大きなテーマのひとつであった。本年度の研究によって、SA-T細胞の増加が一定の遺伝的背景で確かに自己免疫病の発症に重要な役割を果たすことが示された。これには、SA-T細胞の細胞老化特性のうちいわゆるsenescence-associated secretory phenotype(SASP)が関与している可能性が高い。SASP は細胞老化にともない多様な炎症性因子の分泌が亢進する現象であるが、SA-T細胞の場合はとくに顕著な多機能性炎症因子OPNの産生分泌の亢進が認められる。OPNは必ずしもT細胞に特異的なサイトカインではないが、T細胞老化にともないOPNが選択的おこる機構についてはまだ明らかではない。さらに、T細胞老化自体のメカニズムおよびそれが自己応答性T細胞の増加にいたる機構についても不明である。今年度の研究では、T細胞の恒常性増殖反応がこの基礎にあることが強く示唆されたが、この検証も今後に残された大きなテーマである。しかし、これまでの研究によって、少なくともSA-T細胞の増加が加齢に伴う自己免疫性素因を形成する重要な要素であることが示され、当初の仮説は十分に証明されたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を受けて、今後主に以下の3点に研究の焦点をおいて推進する予定である。 1.SA-T細胞の発生増加のメカニズム;早期の胸腺の生理的退縮にともなうT細胞生成の減少、あるいはその他の諸外因(放射線、化学療法薬剤、ウイルス感染症、その他のストレス)による末梢T細胞プールの減少に伴い、T細胞ではいわゆる「恒常性増殖」反応が誘導される。SA-T細胞の生成は、通常の免疫応答ではなくこの恒常性増殖誘導されるという仮説を、胸腺摘除、放射線照射動物へのT細胞移入など様々な急性恒常性増殖モデルを用いて詳細に検証する。 2.T細胞老化の分子機構;T細胞老化にいたる分子機構を主にDNA障害とその修復の観点から解析する。これまでの結果から、T細胞老化にともないクロマチンの濃縮や−H2Xの発現など、遺伝子レベルでの障害蓄積の可能性が示唆させている。Single cell-PCRなどの新しい技術を含め、経時的にこれらの遺伝子変化を解析する。DNA修復遺伝子(ERCC1)欠失マウスを導入し、これにおけるSA-T細胞の発現を詳細に解析する。 3.SA-T細胞による病態発生のメカニズム;SA-T細胞のリンパ系外組織、とくに脂肪組織における出現を解析し、これが脂肪原性慢性炎症(インスリン抵抗性の発現)への機能的関与を検討し、炎症性慢性代謝疾患における免疫老化の意義を検証していく。これらは、T細胞老化が個体全体の恒常性維持に与える効果の解明と老化関連病態の制御に向けて必須の課題であり、期間内での解明をめざして研究を推進する。
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Research Products
(16 results)
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[Journal Article] Nuclear SIPA1 activates integrin β1 promoter and promotes invasion of breast cancer cells.2015
Author(s)
Zhang, Y, Gong, Y, Hu, D, Zhu, P, Wang, N, Zhang, Q, Wang, M, Aldeewan, A, Xia, H, Qu, X, Ring, B.Z, Minato, N, and Su, L.
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Journal Title
Oncogene
Volume: 34
Pages: 1451-1462
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] γδ T Cells and Their Potential for Immunotherapy.2014
Author(s)
Wu, Y-L, Ding, Y-P, Tanaka, Y, Shen, L-W, Wei, C-H, Minato, N, and Zhang, W.
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Journal Title
Int. J. Biol. Sci.
Volume: 10
Pages: 119-135
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Effects of zoledronic acid and the association between its efficacy and gamma delta T cells in postmenopausal women with breast cancer treated with preoperative hormonal therapy: a study protocol.2014
Author(s)
Sumi, E., Sugie, T, Yoshimura, K, Tada, H, Ikeda, T, Suzuki, E, Tanaka, Y, Teramukai, S, Shimizu, A, Toi, T and Minato, N.
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Journal Title
J. Transl. Med.
Volume: 25:
Pages: 310
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Zoledronic acid-induced expansion of γδ T cells from early-stage breast cancer patients: effect of IL-18 on helper NK cells.2013
Author(s)
Sugie, T., Murata-Hirai, K., Iwasaki, M., Morita, C. T., Li, W., Okamura, H., Minato, N., Toi, M., and Tanaka, Y.
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Journal Title
Cancer Immunol. Immunoth.
Volume: 62
Pages: 677-687
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Comparative analysis of gamma-delta T cell responses and farnesyl diphosphate synthase inhibition in tumor cells pretreated with zoledronic acid.2013
Author(s)
Idrees, AM., Sugie, T., Inoue, C., Murata-Hirai, Okamura, H., Morita, CT. Minato, N., Toi, M., and Tanaka, Y.
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Journal Title
Cancer Science
Volume: 104
Pages: 536-542
DOI
Peer Reviewed
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