2015 Fiscal Year Annual Research Report
社会的認知発達モデルとそれに基づく発達障害者支援システム構成論
Project Area | Constructive Developmental Science; Revealing the Principles of Development from Fetal Period and Systematic Understanding of Developmental Disorders |
Project/Area Number |
24119003
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
長井 志江 大阪大学, 工学研究科, 特任准教授 (30571632)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 文英 筑波大学, システム情報系, 准教授 (50512787)
尾形 哲也 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00318768)
吉川 雄一郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60418530)
西出 俊 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 講師 (30613400)
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Project Period (FY) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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Keywords | 知能ロボティクス / 認知発達ロボティクス / 予測学習 / 神経回路モデル / 確率モデル / 自閉スペクトラム症 / 人-ロボットインタラクション |
Outline of Annual Research Achievements |
社会的認知発達の基盤として感覚・運動信号の予測学習に基づく理論を提案し,以下の4つのアプローチから理論を検証した. (1) 乳幼児-養育者インタラクションの解析では,計算論的手法を用いて養育者の適応的教示のメカニズムを検証した. その結果,乳幼児の運動能力の未熟さが養育者の動作誇張を誘発すること,特に学習可能性がある高月齢の乳幼児に対してのみその誇張が生じることが明らかとなった. (2) 社会的認知発達のモデル化では,神経回路モデルや確率モデルを用いて感覚・運動信号を予測学習することで,ロボットが多様な認知機能を獲得するモデルを提案した.身体バブリングを通した道具の身体化や描画運動,模倣,共同注意,ターンテイキング,利他的行動など,自己の認知・制御から他者を含む社会的認知機能までが,予測誤差の最小化という共通の原理に基づいた計算論的モデルで再現できることを確認した. (3) 人-ロボットインタラクション実験では,神経回路モデルを実装したロボットと人間の模倣相互作用を通して,自閉スペクトラム症者の行動特性を定量的に評価する実験システムを構築した.定型発達者を対象とした予備実験で,ロボットが獲得した神経回路モデルを解析することにより,行動特性をメカニズムの観点から評価できることを確認した. (4) 発達障害者の支援システムの開発では,自閉スペクトラム症の非定型な視覚をモデル化し,それをシミュレータとして外在化することで,発達障害者の自己認知と定型発達者からの理解を支援するシステムを開発した.また,発達障害者のコミュニケーションを支援する言いっぱなし・聞きっぱなしSNSを開発し,当事者を対象とした実験で有効に機能することを確認した. 以上の成果は国内・国際会議や学術雑誌で発表され,認知発達の構成的理解と,発達障害者の理解と支援に大きく貢献している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4つのアプローチについて,全て順調に進展している. (1) 乳幼児-養育者インタラクションの解析では,計算論的手法を応用することで,これまでの発達心理学研究における解析では解明が困難であった,微視的な発達様相を明らかにすることができた.これは,本新学術領域における学際的な取り組みだからこそ可能になったものと言える. (2) 社会的認知発達のモデル化では,前年度までに構築してきたモデルを拡張し,さらに多様な認知機能の発達が再現できることを示した.これは,本研究で仮説としている感覚・運動信号の予測学習が,真に認知発達の基盤となっていることを示唆している. (3) 人-ロボットインタラクション実験では,予測学習モデルを応用することで,ロボットの認知機能の獲得だけではなく,それと相互作用する人間(定型発達者と自閉スペクトラム症者)の行動特性を,行動生成メカニズムの観点から検証しうることを示した. (4) 発達障害者の理解・支援システムの開発では,特に自閉スペクトラム症視覚体験シミュレータについて高い成果を挙げることができた.学術的な価値に加え,当事者や支援者から高い評価を受け,さらにテレビ(NHKなど3件)や,新聞(毎日新聞など12件),招待講演(7件)などで広く一般にも周知された(参考:自閉スペクトラム症知覚体験シミュレータに関する情報 http://devsci.isi.imi.i.u-tokyo.ac.jp/events/1210).
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,本新学術領域の最終年度として,以下の研究課題に取り組む. (1) 認知発達のモデル化では,再帰型ニューラルネットワークや深層型ニューラルネットワーク,ベイズモデルを応用した学習手法を用いて,情報のまとめあげをとおした運動学習と社会的行動の発達メカニズムを検証する.感覚・運動情報の予測学習を基盤としたモデルに変動を加えることで,発達の様相がどのように変化し,それが発達障害の発生要因をいかに説明しうるかを計算論的に調べる. (2) (1)で設計した計算論的モデルを人-ロボットインタラクション実験に応用することで,実環境におけるモデルの評価と,学習を通して獲得されるロボットモデルの解析による人間の相互作用特性の評価を行う.定型発達者と発達障害者の相互作用特性を比較することで,モデルの基盤である感覚・運動信号の予測学習の観点から発達障害のメカニズムを探る. (3) 発達障害者が抱える情報のまとめあげの困難さの理解を目的として開発してきた,ヘッドマウントディスプレイ型知覚体験システムや知覚過敏・鈍麻の要因収集スマートフォンアプリ,コミュニケーション支援SNSにさらに機能を加え,実環境でその有効性を評価する.知覚モダリティの追加によるシステム拡張やその定量的評価を通して,当事者に真に役立つ支援システムの設計原理を提案する.
補助事業者は約2ヶ月に1回の割合で会合を開き,研究の進捗状況の報告と,課題の検討を行う.そして最終年度として,他の計画班や公募班との連携もとりながら,領域全体の研究成果を総括し,新たな研究課題の創造に向けて議論する.全ての研究成果は,国内外の学会発表や学術雑誌論文,一般向け講演会などを通じて社会に発信する.
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Research Products
(104 results)