2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | New Ocean Paradigm on Its Biogeochemistry, Ecosystem and Sustainable Use |
Project/Area Number |
24121004
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
津田 敦 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (80217314)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 光次 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (40283452)
浜崎 恒二 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (80277871)
|
Project Period (FY) |
2012-06-28 – 2017-03-31
|
Keywords | 海洋科学 / 生物地理 / 網羅的解析 / プランクトン / 海洋区系 / 細菌 / 珪藻 / カイアシ類 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌を対象とした成果では、付着性細菌は自由生活性細菌とは異なる群集構造を示した。海域間で比較すると,表層で明瞭な違いが見られ,チャクチ海,亜寒帯,熱帯+亜熱帯の3つにクラスタリングされた.一方深層では,付着性細菌群集に海域間(亜寒帯,熱帯+亜熱帯)の違いが見られたが,自由生活性細菌群集ではそのような傾向はみられなかった。またKEGGモジュール解析により浮遊生活と付着生活では群集全体がもつ機能ポテンシャルが大きく異なることが分かった.植物プランクトン群集を対象とした成果では、18S rRNA遺伝子V4領域に対して、次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析を行い、亜寒帯域と熱帯域で主にPseudo-nitzschia属が優占したが、温帯域ではNitzschia属が、亜熱帯域ではMastogloia属が最優占し、緯度帯毎に珪藻類の群集構造が明確に異なっていたことが示された。また、中低緯度域において相対的に珪藻類の多様性指数が高くなった。また、珪藻とハプト藻では地理分布が大きく異なり、各生物群の生活様式が関係していることが示唆された。動物プランクトンでは、最も優占するカイアシ類を対象とした28S rDNAメタ解析法が確立され、太平洋の広域にわたる群集構造の解析を行った。太平洋縦断航海で得られた試料の解析結果から、低緯度域で高く高緯度域に向けて減少する多様性のパターンは表層のみならず比較的均一な環境である中層においても観察された。系統解析の結果、高緯度の冷水域に分布するグループは進化的に新しく分化したことが明らかとなり、カイアシ類の多様性や分布は現在の海洋環境のみならず進化的な要素が大きく影響していることが示唆された。以上のように3生物群で太平洋における地理分布と多様性のパターンが遺伝子から明らかになり、その共通する特徴や差異が明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
領域研究開始時の24年度には次世代シークエンサーを用いた群集解析手法は微生物群集のみで実用化されていたが、27年度は3生物群を対象として、次世代型シークエンサーを用いた網羅的解析手法が開発され、共通機器、原理を用いた形態分類に依存しない群集解析手法が開発されたことは、200年以上にわたり形態分類に基づく群集解析が行われてきたことを考えると、その意義は非常に大きい。網羅的解析のメリットは、分類に関する知識や経験が不足していても、保証されたレベルで生物を分類し定量されることにあり、幼生など分類形質が未発達の個体の分類などにも大きく寄与する。さらに、異なった生物群間での比較は、比較的困難であったが、網羅的手法は、比較可能である。本研究で開発された対象だけでも、3つの食物段階をカバーしており、今後、同じ航海で得られた試料を解析することにより、生物群間で群集構造が同じ要因により制約を受けているのか、それとも生物群間で異なる要因があるのかなどが議論できるようになった。直接的な海洋区系の提案には至らないが、物理観測から提案された区系の是非を評価するには十分な成果が得られたと判断する。さらに、海洋生物の地理分布を形作る要因として、進化的時間スケールの要因を示唆できたことは、予想外ではないが、非常に重要な成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の最も大きな成果は北極海から南太平洋に至る南北断面で、3生物群を対象として次世代シークエンサーを用いた群集解析と多様性パターンの解析ができたことである。これらの成果により各生物群の生物地理における特徴が明らかになった。例えば、付着性細菌群集、珪藻群集、カイアシ類群集は、ほぼ表層海流系に沿った地理分布を示したが、自由性細菌群集、ハプト藻群集は、上記群集とは異なった地理分布を示した。また、カイアシ類では高緯度海域への進出、中深層への進出に関して進化的な時間スケールを考えることによって現在の地理分布が説明されることを示した。現在、3つの生物群に加え、より高次植段階生物(マイクロネクトン)の群集解析も行っており、連携研究者の協力により、バクテリアから小型魚類までの4-5段階の食段階における群集構造、多様性の把握が可能となる。H28年度は、得られた各生物群における地理分布パターンを比較し、差異を明らかにし、その差異をもたらしている要因を解明することである。生物地理、特に海洋では広い分類群にまたがるこのような解析はほとんど行われてこなかったため、画期的な進歩である。また、微生物群集で、行われているKEGGモジュール解析は、次世代シークエンス技術から、海域の物質循環の特徴を把握する試みであり、まだ現場観測に代わる手法とはなりえないが、次の大きな研究テーマとなる。
|