2015 Fiscal Year Annual Research Report
分子表面の精密デザインに基づく人工系における自己組織化制御
Project Area | Dynamical ordering of biomolecular systems for creation of integrated functions |
Project/Area Number |
25102005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平岡 秀一 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10322538)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 自己組織化 / 超分子化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,歯車状両親媒性分子に導入された3つのメチル基がナノキューブの安定性に及ぼす効果を調べた.始めに,一昨年度に開発したC2v対称性を有するヘキサフェニルベンゼン誘導体の合成手法を用いて,ヘキサフェニルベンゼンにベンゼン環,2つの3-ピリジル基,3つの重水素を導入した歯車状両親媒性分子(1)を合成に成功した.水中で会合挙動を調べたところ,1H NMR測定からナノキューブが定量的に生成することが明らかとなった.続いて,熱安定性を調べたところ,60℃付近から崩壊が起こることが明らかとなり,昨年度に合成した,(1)の三つの重水素をメチル基に置換した歯車状両親媒性分子(2)に比べ安定性が劣ることが明らかとなった.これは,3つのメチリ基を重水素に置換したことで,近接する歯車状分子間のかみ合いが悪くなりvan der Waals力が低下したことに由来すると考えられる.続いて,1から形成されるナノキューブについて,等温滴定カロリメトリー(ITC)測定を行い,熱力学的パラメーターを求めた.その結果,会合定数は10の24乗オーダーで,エンタルピー変化は-181 kJ/mol,エントロピー変化は-142 J/mol/Kとエンタルピー的に有利だが,エントロピー的に不利であることが明らかとなった.これは,昨年度に調べたベンゼン環をメトキシ基に置換した歯車状分子(3)から形成されるナノキューブと対照的である.これは,1は3に比べ,より分子間で噛み合うことでナノキューブを形成するため,大きな自由度の損失があるためだと考えられる.このように,1と3を比較すると293 Kにおいて,88 kJ/mol程(1)の方がエントロピー的に不利だが,それを上回るエンタルピーの利得がメチル基周り及び芳香環の三重スタッキングから得られており,分子の噛み合いがナノキューブの形成の駆動力であることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,ナノキューブ内の分子間の噛み合いが高い安定性の起源であることを明らかにすることができた.これまで,疎水効果は疎水表面を溶媒和する水分子がバルクへ放出されるときに,獲得するエントロピーの寄与が大きいと考えられていた.一方で,極めて密に接触する疎水表面間では,強いvan der Waals力が働き,これはエンタルピー的に会合体を安定化するはずである.今回の研究成果により,それほど密に噛み合っていない表面間では,エントロピー及びエンタルピーともに有利で,密に噛み合った疎水表面では,自由度を失いことによるエントロピー的な不利があるが,それを上回るエンタルピーの寄与があることが初めて明らかとなった.この知見は,密に接する疎水表面をデザインすれば,van der Waals力のみで極めて安定な構造体を形成できることを意味し,今後の物資開発の大きな指針を与える.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに,置換パターンの異なる歯車状分子を用いることで,疎水効果が働く環境におけるvan der Waals力の重要性が明らかとなった.また,分子の噛み合いに伴う,エントロピーの寄与とエンタルピーの寄与は複雑であることも判明した.これらに対する理解を深めるために,一昨度までに開発した表面解析の手法(SAVPR法)と組み合わせ,分子構造から安定化エネルギーを見積もる手法の開発へ展開していく.
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Research Products
(30 results)