2016 Fiscal Year Annual Research Report
分子表面の精密デザインに基づく人工系における自己組織化制御
Project Area | Dynamical ordering of biomolecular systems for creation of integrated functions |
Project/Area Number |
25102005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平岡 秀一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10322538)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 超分子化学 / 分子認識 / 疎水効果 / van der Waals力 / 自己集合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,方向性に乏しく結合力も弱い分子間相互作用(主にvan der Waals (vdW)相互作用や疎水効果)を利用して、水中で一義的かつ安定性の高い自己集合体を合理的に設計・合成し、生体系に見られる水中における構造体形成における、これらの弱い分子間相互作用の寄与を明らかにし、さらに、設計指針を確立することで、生体システムに習って、極めて弱い分子間相互作用を駆使して安定かつ秩序だったナノ物質を合成する新規手法を開発することである.水中における自己組織化における最も重要な要因は疎水効果で,これに対する分子論的な理解は複雑で現在も議論の最中にある.vdW力はあらゆる原子や分子間にはたらく最も弱い相互作用で、方向性に乏しいことから、これを使って精密に構造体を形成するためには、従来の分子軌道に基づく化学結合の理解では達成できない.しかしながら,至適最適温度が80 °C以上と言う超高熱細菌が、極限条件でも安定なタンパク質を利用しているように,これらの方向性の乏しく,弱い化学結合でも,緻密にデザインすれば,十分に安定かつ秩序だった構造体を形成できるという理念の元,人工的に一義構造体を形成する分子のデザインを行ってきた.疎水効果を高めるためには,集合化に伴う脱溶媒和表面を増やすことである,一方,vdW力を強めるには,各構成要素の分子表面間を密に接触させることである.両者の条件を満たすため,我々は歯車のように入り組んだ分子表面をデザインし、これらを噛み合わせることで、脱水和表面積を増やし、さらに分子表面の緻密なデザインにより分子表面間を密に接触させ、vdW力も高めることで水中で一義構造を形成する自己集合体「ナノキューブ」の開発を達成してきた.そこで,歯車状両親媒性分子の分子表面の変化に伴う安定性との関係を詳細に調べ、超好熱菌タンパク質に匹敵する集合体を人工的に合成可能か調べた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
歯車状両親媒性分子は中心にヘキサフェニルベンゼンを持ち、C2v対称となるように、3種類の置換基(A, B, C)が結合した分子である.Aはナノキューブを形成した際に作られる三重パイスタック(主にカチオン-パイ相互作用)の中心に位置する芳香環で,Bは三重パイスタックの両端に位置するカチオン生の芳香環である.一方,Cは水素、メチル基ハロゲンなど,比較的小さな置換基で,芳香環との相互作用しCH-パイ相互作用や分散力により構造体を安定化する部分である.本研究では,BはN-メチル-3-ピリジニウム環とし,A及びCを変化させ,ナノキューブの安定性がどのように変化するか系統的に調べた.その結果,いずれの場合も溶媒の排除表面積は2500平方オングストームほどで,生体系に見られるタンパク質ー抗体相互作用の一般的な値である800平方オングストームをはるかに超えていることがわかった.これは,歯車状の分子の持つ広い分子表面に由来する.続いて,置換基の効果を調べたところAに水素を導入し三重パイスタックをなくすと、分解温度は40 °Cととても低く,疎水効果のみならず三重パイスタックも安定性に大きく寄与していることが明らかとなった.また、AにOMe基などの非芳香環の置換基を導入しても安定性は大きく変化しなかった.また、Aにベンゼン環とピリジン環を導入し安定性を比較すると,分子サイズは両者でほとんど変わらず、疎水効果もvdW力もほぼ同じであるにもかかわらず、分解温度は30 °C以上離れていることがわかり、カチオン-パイ相互作用の強さも大きく寄与していることがわかった。最終的に、AにベンゼンをCにメチル基を導入すると,分解温度が130 °Cと言う超耐熱菌タンパク質の最高値とほど同じ安定性を達成できることがわかり,これらの相互作用を使って安定な一義自己集合体を形成できることが実証された.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により、疎水効果、van der Waals力、カチオン-パイ相互作用など,生体系で利用されている弱い分子間相互作用だけを利用しても極めて安定な秩序構造を形成できることが明らかになった.今回は,タンパク質工学における変異と似た手法で歯車状両親倍性分子のあらゆる部位を変えることで,どの置換基が安定性にどのように影響するかを分解温度という尺度で評価を行った.van der Waals力や疎水効果の本質を理解するためには,熱力学的な考察が必要である.ナノキューブの形成の熱力学的パラメーターを求めるためには,ITC(等温滴定カロリメトリー)やDSC(示唆走査熱測定)などがあるが、今回開発したナノキューブが高い安定性を示すことから,ITC測定においては,原理的に測定が不可能で,DSCについては装置の測定温度限界を超えた安定性を示すものも存在し,全てに対応できるものではない.一方,今回我々は分解温度を1H NMR(核磁気共鳴分光)により求めており,ナノキューブと単量体の存在率の温度変化を調べた.通常,これらのデータからファント・ホッフプロットにより熱力学的パラメータを求めることが多いが,水中では定圧熱容量変化がゼロではないため,ファント・ホッフプロットが使えないことが多い.これは,水分子の強い水素結合ネットワークに由来するが,優に沸点を越す高温における水分子の正確な構造とも深い関わりがあり,このような高温における疎水効果の理解という点において意義がある.このように,高温における疎水効果に関する考察をナノキューブをもとに行い,始原生物と関わりが深い超耐熱菌タンパク質の高い安定性との考察から生命の起源に関する問題への基礎知見が得られればさらに意義深い。
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Research Products
(21 results)