2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
25103002
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research on Innovative Areas (Research in a proposed research area)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐々 真一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30235238)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 尚子 茨城大学, 理学部, 准教授 (60311586)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 統計力学 / 非平衡 / ゆらぎ / 流体 |
Research Abstract |
熱力学的性質が温度と密度だけで特徴づけられる系が示す流れ(単純流体)は、もっとも身近にある非平衡系であり、非平衡統計力学の進展に伴って、その微視的記述による理解が蓄積されてきた。しかしながら、最近20年の発展は、単純流体の非平衡ゆらぎの理解に反映されていない。これに本質的な困難があるわけでなく、技術的な煩雑さのために整理が不十分だからである。その煩雑さを制御することは必須であり、まずはそれを簡潔に整理する必要がある。 今年度、この問題について、大きく前進した。具体的には、決定論的流体方程式を分子レベルのハミルトン方程式の記述にもとづいて導出した。ポイントは3点ある。第一に、明晰な結果を得るために、特別なクラスの初期条件に焦点をあてること。そのような知恵が、最近20年の非平衡統計力学の成果でもある。初期条件を局所ギブス分布にとることにより、流体方程式を極めて簡単に導出することができた。そして、第2のポイントが、「ゆらぎの定理」と類似の形をしている恒等式である。その恒等式を利用することで、密度場に対する厳密な時間発展方程式を導出することが可能となった。その後で、第3のポイントである「スケールの分離を表す」摂動パラメータを導入し、摂動展開を行う。簡単でストレートな計算で、Navier-Stokes方程式を導出することができた。この結果は、Phys. Rev. Lett. から出版された。 さらに、測定できないほどまれな事象に左右される現象を実験で制御測定する方法を目指して、レアイベントサンプリングの新しい方法を提案した。この結果もPhys. Rev. Lett. から出版された。最後に、計画研究調書に書いた「形のある粒子の非平衡ダイナミクス」に関連して、単純なタンパク模型について揺動散逸関係の破れなどを解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単純流体の流体方程式をこれほど簡潔に導出できるとは全く想像していなかった。幸運が重なった。一般的な物質に対する流体方程式の導出は50年を超える問題である。研究が活発だった60年代の後、急速に研究はとまり、90年代にスケール分離についての摂動論が単発的に試みられただけだった。その意味で、流体方程式導出論文は今後長期に渡る影響を与えるのは間違いないと思う。 また、レアイベントサンプリングの新しい方法の提案もゆらぎを解析する大きな武器となるだろう。これには二つの意義がある。第一に、ゆらぎの定理など非平衡系の対称性は全て大偏差関数に埋まっており、直接検証するのが困難なので、対称性の直接検証が可能になるかもしれないことである。第2に、滅多に生じないが重要な影響を及ぼす事象を素早く同定する技術につながることである。 さらに、タンパク模型の解析も形のある系の非平衡ゆらぎを調べる上で着実な研究結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
未来の研究においては、流体方程式の導出そのものよりも、導出に至る道筋が重要である。ゆらぎの非自明な効果、例えば、境界付近の振る舞いや核生成を伴う流れなどを議論していくことが可能になる。これは、研究計画書で予定していた研究項目であり、目標達成に向けて順調に次のステップにすすむことになる。ただ、直接的な展開の前に検討すべき点が多々ある。具体的には、導いた流体方程式の輸送係数が有限の値を持っているかどうかなど、細かいことであるが重要な点も明確にしなければならない。また、温度概念の検討も必然的に関わってくる。さらに、レアイベントサンプリング法は適用対象を拡大し、形のある粒子の運動はより具体的な論点を絞る。
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Research Products
(12 results)