2015 Fiscal Year Annual Research Report
ガラスにおける遅いゆらぎのダイナミクスと隠れた秩序
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
25103005
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮崎 州正 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40449913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉野 元 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (50335337)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 統計力学 / 化学物理 / 物性基礎論 / ガラス転移 / ソフトマター |
Outline of Annual Research Achievements |
宮崎は、昨年度に引き続き、ランダムピニング系のガラス転移の研究を中心に行った。特に今年度はダイナミクスの特異性についても解析を行った。動的相関関数の自己成分と協同成分を独立に解析した結果、バルクのそれと異なり、それぞれの成分のダイナミクスが分離することが明らかになった。この結果は、理想ガラス相の中では協同的な揺らぎは凍結しているにもかかわらず、個々の粒子はホッピング運動を介して自己拡散が可能であることを示している。また、ベーテ格子上の運動拘束模型の解析を、ランダムピニング系について行い、そのダイナミクスが、通常の3次元模型同様の理想ガラス転移的な振る舞いを示すことを明らかにした。この結果は、ガラスの標準理論の異なるシナリオが類似の現象を説明することを示した点で重要である。 中山・吉野は、Zamponi博士(ENS,Paris)とともに、ソフト斥力ポテンシャル系のジャミング状態を数値解析した。その結果、圧縮とシアが非可換になり、FC/ZFC剛性率のスケーリング特性が異なることを見出した(論文投稿中)。これは、高次元極限での理論(Yoshino-Zamponi(2014))と整合し、連続的なレプリカ対称性の破れ(RSB)を強く示唆している。 また吉野は、回転自由度のガラス・ジャミング転移をモデル化した有効スピン模型を考案し、スピン成分数N無限大でのレプリカ「スピン」液体論を解析した。その結果、1段階および連続的なRSBによって特徴づけられる複数のガラス相を見出した(投稿準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ガラス転移点を数値計算で到達することは事実上不可能であるが、この困難を克服するアイデアが、構成粒子の自由度の一部を凍結(ピニング)させることにより、真のガラス転移点を高温側に引き上げるというものである。我々は、ダイナミクスの特異性についての解析により、ランダムピニング系のダイナミクスはバルクのそれと異ること、バルクの過冷却液体で普遍的に観測されるAdam-Gibbs法則がランダムピニング系では大きく破綻することを明らかにした。ベーテ格子上の運動拘束模型の解析も類似の結果を導いた。いずれの結果も、ガラス転移の基礎に関わる重要なものである。しかし、ガラス転移点以下のガラス相内についての解析は今後の課題として残っている。またベーテ格子上の運動拘束模型については、動的不均一性の解析が残された課題である。 吉野は、これまでに(1)レプリカ液体論に基づいてガラス・ジャミング系のシアに対する応答の理論解析(2014-)、(2)3次元系における大規模数値解析(2015-)を並行して進めた。現実のガラスは非平衡状態にあり、それぞれのガラス転移温度・密度でパラメータ化されている。我々は、こうしたガラス準安定状態の圧縮・シアに対する応答を追跡する、ガラス状態追跡(glass state following)の方法を、理論/数値解析の両面で確立しつつある。(1)は、F. Zamponi氏(ENS,Paris)らとの共同研究、(2)は、中山大樹氏(阪大理、修士課程)、Yuliang Jin氏(阪大サイバーメディアセンター、特任研究員)との共同研究である。
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Strategy for Future Research Activity |
宮崎は、昨年度に引き続き、ランダムピンニング系のガラス転移を中心に研究を推進する。特にガラス相内の遅いダイナミクスの特異性についてはほぼ未開拓である。ガラス相では熱力学的には一種の固体相であり、運動が凍結しているが、実際には欠陥の運動が残留している筈である。しかしその運動は結晶相におけるそれとは大きく異なることが予想される。我々はこれを大規模な数値計算により明らかにする。またベーテ格子上の運動拘束模型についての解析も引き続き行う。特にこの系の動的不均一性の解析を完成させる予定である。さらに、平均場模型のレベルでの理論の新規開発も並行して行う。特にサイズ比が非常に大きい二成分系のガラス転移の研究を行う。この系では通常の一次レプリカ対称性の破れでは説明できず、各成分のガラス転移の分離が起こることが予想されているが、それを説明する理論は平均場のレベルでも存在しない。 吉野・Jinは、3次元剛体球系において、ガラス状態追跡法(glass state following)に基づく圧縮・シア応答の数値解析を詳細に行う。これによって、(1) ガードナー相におけるシア・圧縮の非可換性、FCおよびZFC剛性率、またこれらのサンプルゆらぎのスケーリング特性の解析 (2) 圧縮・シアを軸とする剛体球系のガラス・ジャミング相図、を明らかにするための解析を推進する予定である。 また吉野は、昨年度構築したたベクトル・ガラス模型の理論解析・数値解析をさらに進める予定である。特に、スピン成分数が有限の場合の近似理論の構築し、数値シミュレーションとの定量的な比較を行う。
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Research Products
(31 results)