2016 Fiscal Year Annual Research Report
ガラスにおける遅いゆらぎのダイナミクスと隠れた秩序
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
25103005
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮崎 州正 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40449913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉野 元 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (50335337)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 統計力学 / 化学物理 / 物性基礎論 / ガラス転移 / ソフトマター |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ガラス転移のフラジリティの物理的起源は明らかにするべく、我々は、粒子間相互作用の一つのパラメータのみをコントロールすることで、最もフラジリティの小さいシリカ的ガラスと、最もフラジリティが大きいソフトコアガラスをシームレスに繋ぐことができる単純液体モデルを考案し、その数値解析を行った。その結果、フラジリティと、緩和指数、構造、比熱、Stokes-Einstein則の破れとの相関を明らかにした。 (2)我々はDF理論の代表的なモデルであるFredrickson-Andersen(FA)模型を、ランダムな不純物が付加されたベーテ格子上での解析をさらに推し進め、多体相関関数を理論的、数値的に解析することでこのランダムピニングFA模型の動的不均一性の性質を明らかにした。 (3)ガラス相の奥深くにおいてガードナー転移と呼ばれる連続レプリカ対称性の破れが起こり、これによって階層的なエネルギーランドスケープが出現することがレプリカ液体論によって示されたが、この現象を3次元剛体球系における分子動力学シミュレーションで明瞭に捉えることに成功した。密度の増大によってガードナー転移が起こると、圧縮とシアが非可換になりZFC/FC剛性率に差異が生じ、異なる圧力依存性を示す。これは理論的な予測と合致している。 (4)回転自由度のガラス・ジャミング転移を統一的に捉える平均場理論の構築、解析を進めた。本年度は特に連続的にレプリカ対称性の破れが起こっている領域での解析を詳細に行った。この模型は、ある種のp-spin模型になっており、p=1の極限では、パーセプトロンの問題に一致する。後者のジャミング転移の臨界指数は剛体球系と同じである。今年度の解析の結果、ユニバーサリティは全てのpにおいて剛体球系と同じになることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ガラス転移、ジャミング転移の平均場理論の研究はこの数年で急激に進んでいるが、我々の研究は、理論研究を有限次元のシミュレーションで検証することに成功しているほか、平均場理論の枠組みでは捉えられない、多様なダイナミクスを明らかにしたものであり、多角的にガラス転移、ジャミング転移の基礎的理解に資する点で、本研究課題の主目的に沿った研究が着実に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
我々は、(1) ガラス・ジャミング系に隠れている複数の特徴的な長さの探索、(2) 降伏応力の発生機構の解明、そして(3) ガラス・ジャミング系の非線形レオロジーの解析の三つの課題を大きな柱とした、数値的・理論的研究を推進している。平成28年度は,これらの課題全体にわたる、ガラス・ジャミング転移の基本問題である平均場描像とその多成分系への応用、および平均場描像の数値的な検証の問題により焦点を置きたい。 宮崎は、28年度に、当初の計画通り系に不純物を混入させたランダムピニング系に関する動力学的拘束模型の動的不均一性の特異性を明らかにした他、2成分系のガラス転移の解析を行った。本年度はその解析をさらに発展させるとともに、ジャミング系とガラス転移におけるレオロジーおよび振動特性に関する研究を行う。具体的には、幅広い密度範囲において剪断振幅に対する応答に見られる吸収転移の普遍性を数値的に明らかにすること、低周波における振動モードとフラジリティの相関関係を明らかにすることなどを目指す。 吉野は、28年度に当初の計画通り、Yuliang Jin博士(本科研費による博士研究員)とともに3次元剛体球ガラスにおいて準静的シア応答の数値解析を行った。その結果、ガードナー転移に伴い、圧縮とシアが非可換になる現象を捉えることに成功した (Nature Communication誌に掲載済み)。高密度まで熱平衡化した過冷却液体を出発点にガラス状態を生成したことが鍵であった。本年度はこのガラス状態において、圧縮によるジャミング、シアによるジャミング、シアによる降伏、減圧による溶融の4つを解析し、統合的な理解を目指す。特に平均場理論では捉えられないシアバンドの役割について詳細な解析を行う。また昨年度に引き続き回転自由度のガラス・ジャミング転移の解析もさらに進める予定である。
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Research Products
(36 results)