2013 Fiscal Year Annual Research Report
多成分ボース・アインシュタイン凝縮体の非平衡ダイナミクス
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
25103007
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
平野 琢也 学習院大学, 理学部, 教授 (00251330)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斎藤 弘樹 電気通信大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (60334497)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 冷却原子 / ボース・アインシュタイン凝縮 / 非平衡構造 / 量子揺らぎ / 数値シミュレーション / スピンエコー / ショット雑音 / 交流磁力計 |
Outline of Annual Research Achievements |
学習院大学の実験グループでは、非平衡現象を研究する際に重要となる磁場の制御や、勾配磁場中のスピンテクスチャのダイナミクス観測などの成果が得られた。磁場の制御については、BECをトラップした場所の磁場を、BEC自身をプローブとして用いて精密に測定する技術を開発した。この測定技術は、BECにスピンエコーの技術を応用したもので、DC的な磁場変動の影響を打ち消しつつ、交流的な応答特性を制御できるという特徴がある。達成した磁場感度は、100μmの空間分解能に対して12pT/√Hzであり、原子スピンの射影に伴うショット雑音限界に近い値であった。この交流磁力計を用い、交流磁場ノイズと逆位相の磁場を人為的に印加することにより、磁場ノイズを1nTオーダーまで低減することに成功した。 学習院大学の理論グループでは、非平衡系における諸分野の課題・問題点の情報収集を行い、液晶で実現されている Directed Percolation の実験は冷却原子気体の系においても実現する可能性があることに注目し、研究を進めた 電気通信大学の理論グループでは、今後の研究に使用する多成分グロス・ピタエフスキー方程式を3次元空間で高速に解くプログラムを開発した。それに加えて引力相互作用する原子のBECの量子トンネリングによる崩壊率を計算した。この系はある臨界原子数以下の場合は準安定であり、臨界原子数を超えると自らの引力に耐え切れずに崩壊することが知られている。崩壊に関する平均場理論を用いた研究は数多く存在するが、平均場近似では量子トンネル効果による崩壊は記述できない。そこで、本研究では直接量子多体計算を行い、量子トンネル効果によるBECの崩壊を初めて直接的に示すことに成功した。本研究は崩壊のダイナミクスを量子多体計算によって示した最初の結果であり、その手法は今後、非平衡量子揺らぎの研究に応用できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験グループでは、当初の計画通り、磁気トラップ中で原子数が100万個程度のBECを生成したのち、光トラップにBECを移行し、スピン自由度を持つ87Rb BECを用意し、実験を進めた。観測は吸収イメージングだけでなく、偏光回転による非破壊測定の開発を行った。また、2成分BECの不安定界面のダイナミクスを研究する上で重要な実験技術となる磁場の制御技術の開発も進めた。磁場の制御技術については、交流磁力計の手法により非常に感度の高い磁力計を実現できることが分かり、環境磁場の揺らぎを、当初の予想よりも低減することに成功した。さらに、研究実施計画に記載したBEC原子スピンのらせん構造に関する実験も行った。この実験では、原子スピンと磁場を精密に制御できるようになったこと、また、理論グループと共同研究を進めたことにより、磁気双極子相互作用がスピンの空間構造に及ぼす効果を観測することができた。これは当初予想していなかった成果であり、国内外から高い評価を受けた。一方、不安定界面についての実験は実施計画に比べてスケジュールが後ろ倒しとなったが、平成26年度に順調に実施した。 理論グループの平成25年度の計画は、BECにおける非平衡ダイナミクスの探求を行うために、多成分グロス・ピタエフスキー方程式を3次元空間で高速に解くプログラムを開発するとともに、それを実行するための並列計算可能なワークステーションを導入することであった。これらは当初の予定通りに達成された。擬スペクトル法と数値計算ライブラリを組み合わせた3次元解析用のプログラムが完成した。ワークステーションは汎用CPU機を3台とGPGPU機を2台導入した。これらはいずれも作成したプログラムを高速で実行することができる。さらに、当初の計画にはなかった、量子トンネルによるBEC崩壊の研究を行い、量子非平衡現象に関する新たな知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
実験グループでは、超流動体の不安定界面、スピン構造などの非平衡ダイナミクスの研究を行う。スピン構造については、スピンテクスチャーのような長距離スピン構造に現れる非平衡現象を探求する。また、多成分BECにおける非平衡科学を切り開くために、引き続き、BEC可視化手法、および光双極子力と磁場による制御の高度化を推進する。可視化手法の高度化は、開口数の大きい回折限界の解像度を実現できる光学系を開発し、微細な空間構造を分解できるようにすると同時に、高速現象を実時間取得できるようにする。非平衡ダイナミクスについては、2成分BECの非混和性に注目し、スピンドメインの形成がスピンカレントに与える影響、また、スピンカレントがスピンドメインに与える影響を実験的に明らかにする。さらに、2成分または3成分BECの衝突ダイナミクスに混和性の与える影響を調べる。学習院大学の理論グループでは、数値シミュレーションを用いて非平衡ダイナミクスの普遍性を探求する。 電気通信大学の理論グループでは、引き続き、数値シミュレーションを用いた実験のサポートおよびBEC界面における新しい非平衡ダイナミクスの探求を行う。平成25年度に導入された並列型ワークステーションを用いて3次元多成分グロス・ピタエフスキー方程式をクランク・ニコルソン法または擬スペクトル法によって数値的に解き時間発展を追う。異なる成分間に力が加わったりせん断流がある場合には、界面不安定性が超流動体でも生じることが同グループの過去の研究で明らかにされているが、この界面ダイナミクスに伴って成長する界面ゆらぎがどのような分布に従うかを調べる。また、学習院大学の実験グループが実施する実験の条件に合わせたシミュレーションを行うことによって実験結果を解析したり新たな実験の提案を行う。
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Research Products
(19 results)