2014 Fiscal Year Annual Research Report
ニュートリノで探る原子核のクォーク・グルーオン構造と標準反応模型の構築
Project Area | Unification and Development of the Neutrino Science Frontier |
Project/Area Number |
25105010
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 透 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10135650)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊野 俊三 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (10253577)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | ニュートリノ / 原子核 / バリオン共鳴 / 深非弾性散乱 / 反応理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、共鳴領域及び深非弾性散乱領域における、ニュートリノ原子核反応模型を構築し、ニュートリノ振動物理の解明に役立て ることを目的としている。 平成26年度は共鳴領域のニュートリノ-核子反応の模型を完成した。不変質量が2GeV以下の領域において、光子、パイ中間子核子反応によるπ、2π、η、K、ωなどの中間子生成過程を、包括的に記述するチャンネル結合中間子生成反応模型を軸性ベクトル流を含む模型に拡張した。その際電子・陽子散乱における1パイ中間子生成反応のデータ、中性子光反応の解析、陽子、重陽子における電子線包含反応の解析を通して最適なベクトル流アイソベクトル、アイソスカラ形状因子を決めた。また軸性ベクトル流の形状因子は、現状で入手可能なニュートリノ反応データの解析およびPCACを指導原理として決定した。この模型は世界で始めて構築された深非弾性領域に接続可能な、2パイ中間子生成を含むニュートリノ反応模型である。また重陽子におけるニュートリノによるパイ中間子生成反応の研究を行い、核子、パイ中間子の終状態再散乱の効果が非常に重要となる可能性を示した。これらの成果は、ニュートリノ相互作用に関する国際研究集会NUINT14,Nufact14,NuSTEC,CETUPで発表した。 また、深非弾性散乱領域のニュートリノ原子核反応の断面積を正確に計算できる模型を構築するために、最新のレプトン・原子核散乱の構造関数データの検討をし、分布関数の解析を進めた。NuTeVのニュートリノ実験では鉄の原子核標的を用いており、補正を行ったアイソスカラー原子核のデータが公開されている。この補正に関してCCFRとNuTeVの解析を担当したYang氏、Tzanov氏と議論し、その取り扱い方針を決めた。また、JLabの実験に関してArrington氏と議論し、その結果を含めた解析を推進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究業績の概要に記述したとおり、現在のところ当初の研究計画に沿って研究を進めている。概ね順調に研究が進み成果があげられていると考えている。 具体的には、共鳴領域に置けるニュートリノ核子反応模型を予定どおり完成することができた。この模型は世界で始めて構築された深非弾性領域に接続可能な、2パイ中間子生成を含むニュートリノ反応模型であり、GeVエネルギー領域のニュートリノ振動実験の解析シュミレーションを行っている研究者に提供する予定である。この成果により、原子核に於ける共鳴領域ニュートリノ反応解析の素過程に関する道具が準備でき、次の段階である原子核効果の研究に進むことができる。また多核子系におけるニュートリノ反応研究の一歩として行った共鳴領域の重陽子ニュートリノ反応の研究においてが、原子核効果である核子再散乱の効果の重要性を示した。これはニュートリノ反応におけるパイ中間子生成過程に関する唯一の素過程のデータであるANL,BNLの泡箱実験の結果の解釈が再度やり直す必要性を示した、重要な研究成果をあげることができた。 深非弾性散乱領域のニュートリノ原子核反応の研究において、NuTeVのニュートリノ散乱、JLabの電子散乱のデータを解析を進めた。特に、ニュートリノ反応のデータは、アイソスカラー補正をした後の数値が一般的に公開されているため、この補正を理解し、本研究課題の包括的解析に導入する方法を検討した。その結果、本課題では、鉄原子核を仮想的なアイソスカラー原子核とみなして解析するか、あるいは補正のない生の実験データを入手して解析することにして研究を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究成果をもとに、今年度は共鳴領域および深非弾性散乱領域それぞれの領域におけるニュートリノ原子核反応模型の構築に向けて、以下の研究を行う。 予定どおり完成した運動量移行4GeV2>Q2,不変質量4GeV2>W2の領域における2パイ中間子生成を含むニュートリノ核子反応模型を、今年度は原子核におけるニュートリノ反応に適用していく。デルタ共鳴領域のニュートリノ・重陽子反応では、26年度の研究で核子及びパイ中間子の再散乱効果の重要性を示したが、今年度はこの解析コードを高速化し、ニュートリノによるパイ中間子生成の基礎データであるANL,BNLの泡箱実験結果の再解析を行う。また核子数の大きな原子核のニュートリノ反応を解析するために、デルタ空孔模型を検討する。今年度は12C,16Oのニュートリノ反応を取り扱うためにデルタ空孔模型の定式化を行う。 平成26年度の解析を進め、NuTeVニュートリノ散乱とJLabのデータを含めた原子核パートン分布関数を決定する。この結果を得るにあたって、ニュートリノ散乱と荷電レプトン散乱で分布関数の原子核補正に有意な違いがあるかどうか示す。解析結果の分布関数計算コードをwebで提供し、ニュートリノ研究者を含めた一般のユーザーが使用できる様にする。次に、Q2が小さい領域(Q2<1 GeV2, W2>4 GeV2)のニュートリノ原子核散乱の解析を開始する。 今年度はニュートリノ原子核相互作用に関する国際会議(NUINT15)を大阪で開催し、最新の研究成果について議論する。
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