2015 Fiscal Year Annual Research Report
生殖幹細胞の減数分裂移行を制御するゲノム-エピゲノムプログラム
Project Area | Analyses and regulation of germline epigenome |
Project/Area Number |
25112004
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中馬 新一郎 京都大学, 再生医科学研究所, 准教授 (20378889)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 生殖 / エピゲノム / 減数分裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
生殖細胞では遺伝情報を体細胞よりも厳密に継承する仕組みが働くものと考えられるが、減数分裂期には逆にゲノムDNAを積極的に組換えると共に、クロマチン構造の大規模な変換が起こる。生殖細胞がゲノム恒常性維持から減数分裂組換えへ遺伝情報の制御転換を行う分子プログラムの研究は進んでいない。研究代表者らはマウス生殖幹細胞 (GS 細胞株、京都大学篠原らが樹立) が体細胞型増殖から第1減数分裂前期にin vitroで移行する培養条件を作出した。この生殖幹細胞株の第1減数分裂はほぼ同調して誘導されることから、分子生化学解析の有用な実験対象となる。哺乳類生殖細胞の減数分裂誘導は古典的にはレチノイン酸(RA)経路を介する事が明らかになっているが、RAはpleiotropicな効果を示し、生殖細胞への分化能を持つES細胞では神経分化を誘導し減数分裂は惹起されない。このため、生殖細胞には減数分裂を可能とする分子プログラム、すなわちエピゲノム修飾や翻訳制御等が予め存在していて、RAをトリガーとしてこれら経路のスイッチが入るものと考えられるが、その分子メカニズムは明らかとなっていない。研究代表者らは、GS細胞とES細胞の各分化誘導系および繊維芽細胞を用いてRNA発現解析、ChIP-seq解析や相対定量プロテオーム解析によるマルチオミクス解析を行った。その結果、GS細胞は未分化生殖幹細胞として体細胞型増殖を行う一方、減数分裂へ移行するためのエピゲノムプログラムをRA非依存的に予め獲得しており、RA刺激に応答して速やかに減数分裂を開始する事が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GS細胞とES細胞の各分化誘導系および繊維芽細胞を用いたRNA発現の時系列解析およびプロテオーム解析から、GS細胞は未分化生殖幹細胞として体細胞型増殖を行う過程で、減数分裂期の機能遺伝子群のサブセット(減数分裂期コヒーシンなど、class 1 meiosis genesと定義)をRA非依存的に高発現する事が明らかとなった。一方、減数分裂期の機能遺伝子群の別のサブセット(stra8、rec8など、class 2 meiosis genesと定義)は、GS細胞ではRNAおよび蛋白質発現が低レベルに抑制される一方、RA添加に応答して速やかに発現上昇が観察された。ヒストンH3K4me3、K9me3、K27me3、RNA polI などのChIPseq解析により、未分化GS細胞および減数分裂誘導細胞のいずれも減数分裂期の機能遺伝子群class1、2プロモーターはbivalant修飾を持たず、H3K4me3+、H3K9me3-、K27me3-である事が明らかとなった。更にRARおよびアセチル化ヒストン等のChIPseqにより、未分化GS細胞においてRARはRA非存在下で減数分裂期の機能遺伝子群のサブセット(主にclass2 meiosis genes)に結合しており抑制性の転写制御に関わる事、およびRA添加によりRNA発現上昇と相関してヒストンアセチル化が明瞭に上昇する事を見出した。更にRAはES細胞および体細胞において減数分裂期の機能遺伝子群の抑制に関与するMAXおよびE2F6のプロモータ結合を制御する事が明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、GS細胞の減数分裂誘導系のオミクス解析により得られたin vitroの知見を、in vivoで実証する事を目標とする。特に、生殖細胞の発生過程でどの様に減数分裂移行の分子プログラムが獲得されるかに焦点を置き、初期胚、胎仔生殖細胞、精原細胞、精子形成プロセスを対象に、RNA発現と転写因子ネットワーク(RAR、E2F6、MAXなど)およびエピゲノム修飾の詳細な時系列解析を進める。併せてGS細胞のレンチウィルスシステムを用いた機能獲得、抑制実験をin vitroおよびin vivo精巣移植により進める。また、生殖細胞ではゲノム・エピゲノム情報を出来るだけ安定に保護するメカニズムが働くものと考えられるが、その分子基盤は殆ど明らかになって居ない。生殖幹細胞のゲノム・エピゲノム恒常性の制御について、他の幹細胞や体細胞との比較により、特徴的な分子機構の解析に取り組むと共に、減数分裂プログラムとどの様に協調しまた制御転換が行われるのか、生殖系列サイクルの遺伝情報の継承と再編のメカニズムの全体像の把握に取り組む。また、DNA組換えやチェックポイント制御に関わる新規遺伝子ノックアウトマウスについて表現型解析や分子生化学解析を進め、生殖細胞および初期発生過程や体細胞系譜における役割を明らかにする事を目指す。
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Research Products
(6 results)