2015 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳類の脳機能老化メカニズムの解明を通じた記憶ダイナミズムの理解
Project Area | Principles of memory dynamism elucidated from a diversity of learning systems |
Project/Area Number |
25115004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久恒 辰博 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (10238298)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 記憶 / 加齢 / fMRI / 海馬 / アルツハイマー病 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病モデルマウスの記憶機能の低下を確認し、その後組織評価を行った結果、ミクログリアの活性化を伴う脳内炎症反応が生じていることを認めた。これらの変化に呼応するシグナル伝達機構を明らかにするために、記憶機能低下に直接的に関与する遺伝子の同定を進めた。加齢や疾病により記憶機能が低下する原因として、ミクログリアの活性化を伴う脳内炎症反応により、神経回路の活動にバランスの乱れが生じ、この回路の変調により記憶機能が低下することが推定された。記憶低下に関わる候補遺伝子として、炎症関連遺伝子(P2Y1)、炎症性ケモカイン遺伝子群、そしてアルツハイマー病リスク遺伝子(ApoE4)があげられた。これらの遺伝子のはたらきを調べるために、前述したアルツハイマー病モデルマウスとの交配実験を行い、記憶行動試験の実施に必要な充分数のマウスを確保した。また、本研究ではマウスのfMRI解析を広く進めて行くために、新生ニューロンやドーパミンニューロンに限ってシナプス伝達を特異的に制御できる遺伝子改変マウスを準備し、これらのモデルマウスの記憶試験と脳fMRI画像研究を並行的に研究する準備を整えた。本研究領域においてドーパミンが学習記憶を担う最重要分子であることをショウジョウバエで見出しているが、その影響をマウスでかつ全脳レベルで解析することは行われていない。ドーパミンニューロンの機能不全はレビー小体型認知症においても指摘されており、脳機能老化メカニズムの一つにドーパミンニューロンの機能不全があると予測される。さらに本研究では、モデルマウス研究に加えて、ヒト高齢者が参加するヒト試験を実施し各種の記憶検査を行い、加齢による記憶機能低下の原因に脳内炎症反応があることをヒト試験においても見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究においては、アルツハイマー病原因遺伝子であるAPP/PSENダブルトランスジェニックマウスに高脂肪食を給餌する糖尿病併発型アルツハイマー病モデルマウスを用いた。このアルツハイマー病モデルマウスの記憶機能の低下を海馬依存的な記憶課題である水迷路学習と文脈恐怖条件付け学習の二つで確認した。その後、記憶の中枢である海馬の組織染色評価を行った結果、アストロサイトならびにミクログリア細胞の活性化を伴う脳内炎症反応が生じていることを認めた。また、アミロイドβペプチドの蓄積が亢進していることを認めた。これらの変化に呼応するシグナル伝達機構を明らかにするために、記憶機能低下に直接的に関与する遺伝子の同定を進めた。その候補遺伝子として、炎症関連遺伝子であるプリン受容体P2Y1があげられた。この遺伝子のはたらきを調べるために、前述したアルツハイマー病モデルマウスとP2Y1受容体欠損マウスの交配を行い、記憶行動試験を実施した。脳内炎症と記憶機能低下の関係については、健常高齢者が参加したヒト試験の結果からもその関連性を指摘することができた。また、fMRIを用いた記憶回路の描出に関して、新生ニューロンやドーパミンニューロンに限ってシナプス伝達を特異的に制御できる遺伝子改変マウスを作出し、fMRI装置を用いた記憶回路解析の準備を整えた。ドーパミンニューロン-TeTXマウスの学習記憶機能を評価するために、新たに逆転学習を含めたマウスのオペラント学習課題を考案し、その実験系を確立した。本実験をfMRI装置内で実施するために、全ての器具を非磁性で組み上げた。この装置を用いて、100 μmレベルでの空間分解能、かつ1.5 s/flameでの時間分解能を持って、マウスのfMRI画像を取得することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
アルツハイマー病モデルマウスを用いた記憶機能低下メカニズムの解明に関して、老人斑の蓄積と脳内炎症の関係をより掘り下げて解析する。また、アルツハイマー病リスク遺伝子であるApoE4の記憶機能低下に及ぼす影響を調べるために、ヒト化ApoE44ノックインマウスとAPP/PSENダブルトランスジェニックマウスのかけ合わせを行い、そのマウスの記憶機能低下を水迷路学習と文脈恐怖条件付け学習課題を用いて評価する。これらのアルツハイマー病モデルマウス、ならびにドーパミンニューロンシナプス伝達不全マウス等を用いてfMRI解析研究を行い、学習記憶に関わる脳回路をあぶり出す。さらに、記憶機能が低下した高齢者ボランティア参加試験を継続し、記憶機能低下の脳内メカニズムを、fMRI解析などを通じて明らかにしていく。そして、動物種を超えた、記憶機能低下のメカニズム、さらには学習記憶に関する共通の原理を導き出す。
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Research Products
(7 results)