2016 Fiscal Year Annual Research Report
線虫C. elegansの忘却制御機構から探る記憶のダイナミズム
Project Area | Principles of memory dynamism elucidated from a diversity of learning systems |
Project/Area Number |
25115009
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石原 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (10249948)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 神経科学 / 行動 / 記憶 / 線虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物は、様々な環境からの情報を記憶として保持している。本研究では、保持時間が短い短期記憶を忘れるメカニズムを、分子・神経回路から明らかにすることを目指している。本年度は下記のような研究を進めた。 (1)嗅覚順応の記憶を忘れにくい変異体の原因遺伝子の働く細胞を遺伝学的に推定するとともに、二重変異体の作成によって複数の経路によって忘却が制御されていることを明らかにした。さらに、カルシウムイメージングにより、これらの変異体において嗅覚神経細胞の応答によって忘却が制御されていることを明らかにした。 (2)嗅覚順応の記憶を制御する神経回路を明らかにするために、介在ニューロンを遺伝学的に除去した線虫を用いて解析を進めた。その結果、嗅覚神経回路に関わるアンフィッド介在ニューロンが忘却を促進していることが明らかになった。 (3)餌の有無によって忘却が制御されるメカニズムを明らかにするために、これまでに同定した変異体の解析により原因遺伝子の同定を進めた。その結果、神経伝達を制御するシグナル経路が餌の有無による忘却の制御に関わっていることが明らかになった。 (4)忘却の促進をしている感覚ニューロンの活動を人為的に操作することによって、条件付け後の実際に忘れる時に神経の活動が必要であることが明らかになった。 (5)ブタノンエンハンスメントの記憶の消去のメカニズムを明らかにすることを目的として、ブタノンに対する応答とブタノンエンハンスメントの記憶の消去との関係を解析した結果、ブタノンに対する新しい学習によってもとの記憶が上書きされた可能性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
嗅覚学習を用いた忘却の分子・神経回路メカニズムの解明を進めている。本年は、これまでに同定した変異体の原因遺伝子が働く経路を決めるとともに、それらの遺伝子産物が感覚応答に及ぼす影響を明らかにした。また、忘却促進シグナルが、実際に忘却している時に働いていることを明らかにした。さらに、介在ニューロンが忘却に必要であることを明らかにすることができた。また、餌のシグナルによる忘却の制御に関わる新しいシグナル経路を同定することもできた。このようなことから、これらの解析を発展させることによって、忘却とその制御に関わる分子・回路メカニズムを明らかにしていくことができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
嗅覚学習を用いた忘却の分子・神経回路メカニズムの解明のために、これまでに同定した忘却に関わる遺伝子や介在ニューロンの関係を遺伝学的手法を用いて明らかにするとともに、嗅覚ニューロンとその介在ニューロンとの関係をカルシウムイメージングによって明らかにしていく。また、忘却の制御に関して、忘却の機構のどこを制御しているのか、また制御に関わる神経伝達物質は何であるのかなどを、遺伝学的に明らかにしていくとともに、カルシウムイメージングにより嗅覚応答の変化との関連性を明らかにしていく。
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