2015 Fiscal Year Annual Research Report
こころの時間長・同期・クロックを作り出す認知メカニズムの解明
Project Area | The Science of Mental Time: investigation into the past, present, and future |
Project/Area Number |
25119003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 郁也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (60396166)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
四本 裕子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80580927)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 実験系心理学 / 認知科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
一瞬呈示するフラッシュ刺激の位置が運動対象に比べて時間的に遅れるというフラッシュラグ効果と、フラッシュ刺激が運動対象に引きずられて位置がずれて見えるというフラッシュドラッグ効果を、同時に測定できる技術を開発し、時間遅れメカニズムと位置ずれメカニズムの因果的つながりを明らかにし (Murai & Murakami, 2016)、位置ずれメカニズムと両眼立体視メカニズムの因果的つながりも明らかにした (Hisakata et al., 2016)。突然出現する対象に対して注意の移動が起こり探索処理時間が短縮する注意捕捉と、以前に調べた箇所を再探索しないようにする視覚的印付けが同時に生起する環境をつくり、両者が相補的に作用することを示した (Osugi et al., 2016)。かつて注意が向かされた場所でかえって標的の検出反応時間が長くなるという復帰抑制において、検出対象の主観的持続時間も短くなることを見出した (Osugi et al., 2016)。刺激を10Hzで時間変調させると、視覚では知覚時間の延長、聴覚では知覚時間の短縮という正反対の錯覚が生じることを見出し、感覚皮質の部位ごとの時間情報符号化の同期周波数が異なることを論じた (Yuasa & Yotsumoto, 2015)。1秒以下の時間と1秒以上の時間は、脳内の異なるネットワークで処理されている可能性があるが、時間順応実験により、視覚の時間順応には1秒の壁が存在しないことを示した (Shima et al., 2016)。さらに、fMRIを用いた脳機能測定実験により、1秒の壁は文脈依存的に比較的柔軟に変容することを示した (Murai & Yotsumoto, 2016)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の研究プロジェクト計画を同時並行にて進め、概ね研究実施計画通りに進行させることができ、そのうち多数の研究テーマに関して対外発表に到ることができた。視覚探索、時空間相関解析、EEG (脳波計測)、fMRI (機能的磁気共鳴画像法)など、個々の研究者のノウハウを最大限に活用しながら視覚心理物理学と認知神経科学の技術を駆使することで、本計画研究を進めることができた。特に、注意の引きはがしに由来する単純検出反応時間の遅れと評価されていた復帰抑制現象において、標的の知覚的持続時間そのものの短縮が生じるという心理物理学的データを得たこと、また、知覚的現在の領域である1秒未満と1秒以上3秒程度までの持続時間の知覚表象に関して、多感覚の知覚実験と脳計測を駆使して処理モデルの提案にいたったことは、多分野を横断して波及効果が及ぶことが期待される研究成果とみなすことができ、その意味では過達と評価できる。査読有り国際論文は7件で、一定の達成度が得られたことの証左となる。またその掲載誌として、平均インパクトファクターでみれば2.3であり当該専門領域のトップジャーナルである媒体に掲載がかなったことを鑑みれば、関連分野への波及効果に関して一定の達成度が見られたというように自己評価できる。学会発表に関しても、国際学会発表9件、国内学会発表9件を行ったこと、また国内外いずれの発表の場も当該専門領域での最高水準・最大規模の学会 (Society for Neuroscience、Vision Sciences Society、など) であったことは、一定の達成度が得られたことの証左となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、対外発表という目に見える形で一定の達成が得られた一方で、同時並行して進めている複数研究プロジェクトのうちでは、さらなる発展実験が必要なために、いまだ研究成果の発表に到っていないものもあることが課題である。今後は、本年度の研究内容を総括してあぶり出した課題を克服し発展実験を実施して研究成果につなげるために、本年度の路線を踏襲しながら新たな実験研究を行っていく。また、fMRI、EEGなどの認知神経科学的研究手法をさらに発展的に駆使しながら、脳内の知覚時間制御のネットワークの解明に向けて、心理物理学的手法と脳計測を組み合わせた実験を進めていく。特に、知覚順応のテクニックを用いて、一定あるいはあるバラエティに限局した持続時間に順応し、知覚的構えが生じた後での対象の知覚時間の変化、また脳内表象の移動などの生起を実験的に探るほか、運動順応後の錯覚的運動に伴って運動による持続時間伸長が生じるか否かを検証する。課題無関連刺激に高速変化をもたせた場合、標的の持続時間に変容が生じるか否か、また視野内の空間配置はそれに影響を及ぼすかを、心理物理学的に検討する。注意過程において視覚的印付けが壊れる要因として、突発事象に対応するために緊急に活性化された処理との注意資源の競合を超高速で再調停するメカニズムの存在を実証するための認知心理学実験を行い、ミリ秒単位の処理コストを実測する。研究を遂行する上で、本年度と同様に博士研究員の雇用をして研究推進の原動力とするほか、実験参加者への謝金の支出や必要な研究施設の借上げなどをして、安定的な行動実験やfMRI実験の環境を維持する。
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