2016 Fiscal Year Annual Research Report
こころの時間長・同期・クロックを作り出す認知メカニズムの解明
Project Area | The Science of Mental Time: investigation into the past, present, and future |
Project/Area Number |
25119003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 郁也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (60396166)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
四本 裕子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80580927)
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Project Period (FY) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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Keywords | 実験系心理学 / 認知科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動する視覚対象を観察すると時間伸長して感じられるが、環境中では静止していながら運動錯視により主観的に動いて見える対象でも時間伸長が起きることを発見した (Aoki et al., 2016)。視覚探索における視覚的印付けが、シングルトンの出現時刻に不完全化すること、またドラスティック変化刺激の出現時刻にリセットされることを見出した (Osugi & Murakami, 2017; Yamauchi et al., 2017)。仮現運動刺激を観察すると明瞭な運動印象とともに画像更新頻度の知覚も生じているが、一方向に一貫して運動する運動刺激の方が、ランダムに画像パターンが更新される刺激よりも、画像更新頻度が遅いリズムであるように知覚される現象を発見し、さまざまな更新頻度で検証した (Inoue et al., 2016; Inoue & Murakami, 2017)。機能的脳イメージングにより、運動軌跡の時空間的歪み現象の神経相関が背側と腹側の視覚連合野に同定された (Tanaka & Yotsumoto, 2016)。視覚刺激や聴覚刺激の主観的持続時間における中心化傾向の発生様式を調べ、秒以上の時間長ではモダリティ独立な処理過程が関与し、秒未満の時間長ではモダリティ特異的な過程とモダリティ独立な過程が関与することが示唆された (Murai & Yotsumoto, 2016)。フリッカー刺激を観察すると時間伸長して感じられるが、ある程度距離が離れた静止刺激にまでこの効果が波及しうることが示された (Okajima & Yotsumoto, 2016)。時間経過判断に及ぼす要因を調べ、感じられる持続時間と事象の時間的予測との乖離、および、事象終了時刻のオンライン予測が重要な要素であることがわかった (Tanaka & Yotsumoto, 2017)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の研究プロジェクト計画を同時並行にて進め、概ね研究実施計画通りに進行させることができ、そのうち多数の研究テーマに関して対外発表に到ることができた。固視中の眼球の微動に伴う運動錯視、視覚探索、fMRI (機能的磁気共鳴画像法) など、個々の研究者のノウハウを最大限に活用しながら視覚心理物理学と認知神経科学の技術を駆使することで、本計画研究を進めることができた。特に、感覚刺激の持続時間長の知覚、一定頻度で画像が更新される刺激での更新リズムの知覚、観察者内部での時間経過の認知など、本計画研究の三本柱のテーマをすべて実証的に調べ、処理モデルの提案にいたったことは、多分野を横断して波及効果が及ぶことが期待される研究成果とみなすことができ、その意味では過達と評価できる。査読有り国際論文は8件で、一定の達成度が得られたことの証左となる。またその掲載誌として、平均インパクトファクターでみれば2.5であり当該分野のトップジャーナルに掲載がかなったことを鑑みれば、関連分野への波及効果に関して一定の達成度が見られたというように自己評価できる。学会発表に関しても、国際学会発表9件、国内学会発表10件を行ったこと、また国内外いずれの発表の場も当該専門領域での最高水準・最大規模の学会 (Society for Neuroscience、Vision Sciences Society、など) であったことは、一定の達成度が得られたことの証左となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度に引き続き対外発表という目に見える形で一定の達成が得られた一方で、同時並行して進めている複数研究プロジェクトのうちでは、さらなる発展実験が必要なために、いまだ研究成果の発表に到っていないものもあることが課題である。今後は、本年度の研究内容を総括してあぶり出した課題を克服し発展実験を実施して研究成果につなげるために、本年度の路線を踏襲しながら新たな実験研究を行っていく。また、fMRI、EEGなどの認知神経科学的研究手法をさらに発展的に駆使しながら、脳内の知覚時間制御のネットワークの解明に向けて、心理物理学的手法と脳計測を組み合わせた実験を進めていく。特に、視覚探索における探索非対称性のテクニックを用いて、運動反転刺激という時間的に制限された視覚特徴をもつ刺激の検出の特性を調べるとともに、周期的なパフォーマンスのゆらぎ現象を時間知覚において検証する。機能的脳イメージングでは、観察者にとって等しい時間長と感じる条件と、等しくない時間長と感じる条件との間で、活性化の大きさの異なる領域を同定することを図り、fMRI実験を実施する。また、時間知覚のための神経処理における左右大脳半球間の連絡の様式について、認知神経科学的に実証的に調べを進めるほか、高次脳機能障害において時間産出課題の成績と空間産出課題の成績の関連を実証的に調べていく。研究を遂行する上で、本年度と同様に博士研究員の雇用をして研究推進の原動力とするほか、実験参加者への謝金の支出や必要な研究施設の借上げなどをして、安定的な行動実験やfMRI実験の環境を維持する。
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Remarks |
四本裕子、National Geographic 「『研究室』に行ってみた。」ヒトの脳はどのように時間を知覚しているのか http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/17/020800002/
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