2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | pi-System Figuration: Control of Electron and Structural Dynamism for Innovative Functions |
Project/Area Number |
26102006
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
斎藤 雅一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80291293)
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Project Period (FY) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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Keywords | 典型元素 / トリホスファスマネン / ヘキサヘテラ[6]サーキュレン / 鉛二価化学種 / 超分子 / 中性トリプルデッカー型遷移金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 典型元素の特性を活かした表裏二面性を有するπ共役化合物の創製の試み:π平面の上下に典型元素官能基を導入して表裏二面性を付与するという炭素π電子系では困難な新しい概念の構築を目指した。そのためのプラットホームとしてスマネンのベンジル炭素を典型元素に置き換えたトリホスファスマネントリスルフィドを新規に合成した。極性官能基であるP=S部位3つがほぼ平面のπ骨格に対して同じ方向を向いた異性体の単離に成功し、そのπ平面の表裏では全く異なる静電的性質をもつことを理論計算により明らかにした。 2 ヘキサヘテラ[6]サーキュレンの設計と合成検討:典型元素を組み込むと、機能性炭素π電子系よりも単純な骨格でも元素の応じた様々な機能が発現する。今回、初めてのヘキサヘテラ[6]サーキュレンを設計し、それらが非常に低いLUMOを有することを理論計算により明らかにした。また、トリシラトリンダンを出発原料に、ヘキサシラ[6]サーキュレンの合成を検討した。さらにベンゾトリチオフェンを出発原料に初めてのヘキサチア[6]サーキュレンの合成を検討した。 3 鉛二価化学種の特性を活かした超分子の創製とその物性探索:高周期14族元素二価化学種には2本の結合と同一平面上にある孤立電子対と垂直に位置する非占有軌道がある。そこで、鉛二価化学種に対して、Lewis塩基として1,4-ジオキサンを作用させたところ、ジオキサンの2つの酸素を配位点とした超分子の創製に成功し、その単結晶が永久双極子モーメントをもつことを明らかにした。さらに、この結晶が第二次高調波を発生することも明らかにした。 4 高周期14族元素メタロールジアニオンを用いた新規π電子系の創製とその物性探索:研究代表者が合成しているスタンノールジアニオンを用いて、炭素のみからなるπ電子系では創製できない中性トリプルデッカー型遷移金属錯体の合成に成功し、その特異な物性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、典型元素を炭素π電子系骨格に組み込み、炭素には見られない、典型元素ならではの特性を活かした機能の発現を探索している。そのような観点から、今回合成に成功したトリホスファスマネントリスルフィドでは、リンが炭素とは異なり五価をとることに起因して、π平面の表裏の静電的性質が異なっている。特に、3つの全てのP=Sが同じ方向を向く異性体は、P=Sを有する面が負電荷を帯びるため、大きな双極子モーメントが誘起されている。このような性質は炭素のみからなるπ電子系では創出困難なものであり、典型元素の特性が生かされた成果として認められる。 典型元素を利用すると、単純な骨格でも大きな炭素π電子系に匹敵するような物性が発現することが知られている。今回、設計したヘキサヘテラ[6]サーキュレンは非常に低いLUMOを有することを理論計算により明らかにした。特にヘキサチア[6]サーキュレンのLUMOはフラーレン類縁体のLUMOに匹敵するほど低いことがわかった。このような知見は、典型元素の特性を活かした分子設計戦略に繋がる極めて有益なものである。現在、このヘキサチア[6]サーキュレン並びにヘキサシラ[6]サーキュレンの合成を検討しており、その前駆体として期待できる化合物の合成に至っている。 分子内配位による安定化を必要とする基底一重項の炭素二価化学種とは異なり、高周期14族元素二価化学種は非占有軌道を残したまま比較的安定な一重項状態をとるので、非占有軌道に自在に塩基を配位させることが可能である。そのような高周期元素の特性を活かして異方性のある超分子結晶の作成に成功し、その特異な光学的性質を明らかにした。さらには、配位子として広く用いられているシクロペンタジエニルアニオンでは合成できない中性トリプルデッカー型遷移金属錯体の合成にも成功している。 以上のようなことを総合的に判断すると、研究はおおむね順調に進展していると認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回合成に成功したトリホスファスマネントリスルフィドのπ平面の表裏の静電的性質が異なることを実験的に明らかにするため、まず、その一分子での電気伝導度の測定を行う。特に、3つの全てのP=Sが同じ方向を向く異性体と1つのP=Sが異なる方向を向く異性体の電気伝導度を比較することにより、区別されたπ面の特性を明らかにすることができると考えている。また、電子豊富及び不足芳香族化合物との共結晶生成を検討する。3つのP=Sが同じ方向を向いた異性体の場合、P=S側には電子不足芳香族化合物が、その逆面には電子豊富な芳香族化合物が相互作用した結晶が得られると予測される。そのような結晶作成を通して、π平面の表裏二面性という新しい概念の実証を行う。 引き続き、ヘキサシラ[6]サーキュレン並びにヘキサチア[6]サーキュレンの合成を検討する。さらに、硫黄の代わりにセレンを導入した典型元素混合型分子の創製も目指す。 合成に成功した鉛二価化学種を利用した超分子は、配位子の配位の強弱によりその光学特性が変化することが期待される。そこで結晶の軸方向に圧力をかけて配位子・配位場の強い相互作用を誘起し、光学物性がどのように変化するかの実験的評価を行う。 中性トリプルデッカー型遷移金属錯体の混合原子価状態の性質を明らかにするため、酸化反応を検討する。得られる一電子酸化体の構造や導電性を調べる。
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