2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | pi-System Figuration: Control of Electron and Structural Dynamism for Innovative Functions |
Project/Area Number |
26102015
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
杉本 学 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (80284735)
|
Project Period (FY) |
2014-06-27 – 2019-03-31
|
Keywords | π造形 / 計算化学 / 分子設計 / 構造物性相関 / 電子状態 / 理論化学 / 情報化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、π共役系化合物による分子造形に関する理論計算シミュレーションを実施し、その構造物性相関の解明・予測とそれに基づく電子状態学の確立を目指した研究を行っている。平成26年度は、領域内の実験グループとの共同研究として、様々な形状のチオフェンオリゴマーの電子状態と光物性および自己組織化特性、グラファイト型窒化炭素やお椀型π共役分子の弾性変形挙動、に関する検討を行った。加えて、金属イオン等による複合π共役系化合物の発光特性の制御についても領域外実験グループとの共同研究として実施した。また分子造形支援を目的として、分子設計ツールの開発に取り組んだ。 チオフェンオリゴマーについては、モノマーをシス形に連結することによって得られる環状構造に特に注目し、重合度の変化、環の積層や多重環構造形成、環の圧縮や拡張による電子状態と光吸収スペクトルの変化について系統的に研究した。チオフェンオリゴマーの自己組織化については、実験的に観測された構造パターンの成因を分子間相互作用解析を通じて検討した。 グラファイト型窒化炭素やお椀型π共役分子の弾性変形挙動については、分子の弾性変形に要する力や圧力を評価する手法を新たに考案し、実際の分子系に応用した。検討の結果、偽2次元的ネットワークポリマーであるグラファイト型窒化炭素が極めて小さな圧力で平面型構造になること、お椀型分子ではかなり高い圧力を印可しなければ平面型構造にならないことが定量的に示された。 複合π共役系化合物の発光特性に関しては、金属イオンとの相互作用によるスペクトル変化の原因や、分子集合体形成によるスペクトル変化の原因を解明することができた。 分子設計ツールについては、電子状態計算で得られる分子構造、電子状態、基本物性の情報、および文献から得られる物質キーワードを集積するデータベースシステムと検索機能および分類・解析機能を開発した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
π造形アセンブリ(π電子系分子集合体)に関する理論研究としてはチオフェンに関する2つの研究テーマに取り組み、学会発表、国内研究集会・依頼講演などで成果報告をすることができた。これらの成果に関する学術論文の投稿を目指して現在執筆している状況にまで到達した。これらはいづれも領域内の実験グループの提案・依頼に基づくものであり、十分な研究交流を達成できている。 π造形科学の重要課題の一つに位置づけられるElastic-π機能に関して、今年度は新しい計算手法を開発した。この方法は汎用性があるために、すでに数種類の分子系・分子集合系に適用している。この研究は申請者単独のみならず、領域内共同研究としても実施している。主要な数値解析はほぼ終了したので、H27年度にはいくつかの論文として成果発表できるものと考えている。 複合π共役系化合物の発光特性に関しては、金属イオンとの相互作用によるスペクトル変化の原因や、分子集合体形成によるスペクトル変化の原因を解明することができた。前者の課題については2報の論文として成果発表することができた。後者については現在論文投稿中である。 分子設計ツール開発については、その独自性から多くの研究者の興味を引いており、H26年度は国内外の学会での依頼講演数件を受けるに至っている。成果の一部は国際学会プロシーディングスとして発表し、現在印刷中である。また、現在スイス・バーゼル大学からの問合せがあり、国際共同研究への展開可能性について意見交換を行うに至っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在取り組んでいる計算化学解析を更に推進するために、モノマーの種類を変えたり、異なる集合体構造に関する解析を行う予定である。検討例を増やすことによってπ造形科学の学術基盤となる「電子状態学」を確立し、分子設計の指針となる構造物性相関の概念を拡充する。 π造形における弾性変形特性については新たな評価手法を考案することができたので、様々π共役分子に適用し、有用性の検証や得られる知見の拡充を目指したい。 複合π共役系化合物の発光特性に関しては、発見したメカニズムの検証とその汎用性の確認を目指す。 分子設計システムについては、既にユニークな機能を有する数百個の分子群に関するデータベースと検索機能を構築することができた。また検索された分子の電子状態的類似性や形状類似性を評価したり、重要な電子的因子を発見するツール、文献情報から化合物の概念情報抽出するツールも開発できた。全体としてはまだこれらはプロトタイプであるので、今後はそれらの利便性の向上、データ拡充、機能拡充を目指し、π造形科学の推進に貢献できるレベルにまで改良したい。
|