2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Application of Cooperative-Excitation into Innovative Molecular Systems with High-Order Photo-functions |
Project/Area Number |
26107002
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮坂 博 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40182000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長澤 裕 立命館大学, 生命科学部, 教授 (50294161)
八ツ橋 知幸 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70305613)
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Project Period (FY) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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Keywords | 多重励起 / 多光子励起 / フェムト秒分光 / ピコ秒分光 / 禁制電子状態 / フォトクロミック反応 / レーザー光化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子状態を選択し反応を制御することは、光化学の大きな目標の1つである。同じ分子でも電子状態が異なれば物性は異なるので、原理的には励起波長に依存した異なる反応性が期待できる。しかし数十原子以上からなる分子では、高位電子励起状態が生成しても迅速に最低励起状態に緩和するため、電子状態に強く依存した反応例はほとんど知られていなかった。我々は凝縮系におけるフォトクロミック分子系を対象とした研究から、逐次二光子吸収による開環反応の促進や励起モードに依存した反応性の差違を見いだしてきた。これらの研究結果に基づき、本課題では、高位電子状態の利用とその一般化手法の開拓を目的とし、1.禁制高位電子状態のダイナミクス、2.振動位相制御による二光子反応の効率化の観点から研究を行った。 既に28年度までに完成したフェムト秒多波長過渡吸収測定装置を用い、非常に微弱な信号の測定を確実にするため、高いS/N比が得られるように光源の安定化、光学系、制御系の改良を行いながら、S1状態の反応性の異なるジアリールエテン誘導体を対象として、逐次二光子励起により生成する高位電子励起状態(Sn状態)のダイナミクスを、励起に用いる2波長およびその照射時間間隔(Δt)の3次元の関数として測定した。 特に一段目の励起により生成する低位電子励起状態の時間変化に、反応に関わると考えられる低周波コヒーレント振動が観測される化合物に対して、この振動周期の位相を選択した2段目の励起を行い、より効率的な反応制御法が可能となった。また高位電子励起状態からの反応に適した分子構造を、理論計算の結果と対応させた。また種々の誘導体に研究を展開し、S1状態の反応性とSn状態の反応性の相関に関する知見を獲得できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記のように、① 禁制高位電子状態のダイナミクス、および ② 振動位相制御による二光子反応の効率化については、完成したフェムト秒2色2段励起システムを用いた測定を展開し、S1状態の緩和挙動や、反応に関与する高位電子励起状態への効率良いアクセス、その反応機構に関する実験結果が取得できた。また、低電子励起状態の一光子反応における機構、収率を支配する因子と、高位励起状態の反応収率との相関が実験的に見出され、それを支配する根本的な原理も解明されつつある。また通常の値と比較して2桁から3桁以上大きな同時二光子吸収断面積を利用した効率的な励起手法も発見され、禁制電子状態へのアクセス手法の多様性が拡大できた。 また共同研究として、ラジカル生成系の結合開裂ダイナミクスの詳細な実験、理論的解明も行った。③ 励起子消滅により生成する高位励起状態の反応開拓についても、二光子吸収過程とS-S消滅を経た高位励起状態からの反応、また光熱効果に関する知見を得た。④ 分子-光子強結合系による電子状態変調に関しては、従来、光反応と光熱反応の区別が困難であったが、貴金属ナノ粒子近傍の温度上昇、また対流に関する詳細な知見が得られており、最終年度以降の研究の進展に必用な基礎的知見が得られた。その他にも、複合励起を利用したOFF―ONとON―OFF蛍光励起の開発、この手法に適した分子系の特徴、単一分子計測への応用、レーザートラッピングを利用した自発メカニカル運動系の構築とその光応答の解析など、いくつかの新規現象の発見とその展開がなされており、今後の発展につながる成果が多く見出された。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、装置構築、基礎的データの取得が順調に行われると共に、複合励起に伴う新規現象、またメゾスコピック系の光応答につながる知見も多く見出されている。基本的には最終年度も、レーザー装置の保守などを中心に装置の整備を行いつつ、研究を継続するとともに、全体のとりまとめを行う。特に、①および②の研究については、安定した出力を得ることが可能なフェムト秒、ピコ秒レーザーが必須である。現有のフェムト秒レーザーは基本的には、導入後20年程度を経過、また、ピコ秒レーザーも25年程度が経過しており、H28年度の追加配分でいくつかの保守につながる装置が拡充できたが、基本的には順次部品や電源の交換などを行いながら、研究を展開する。また、多くの新規分子系の合成開発グループの基礎的な時間分解計測も引き続き行いながら、領域全体の研究の発展に寄与する。 既述の①から④については、順調に研究が進展しており、特に新に見出された新現象の中にも、複合励起に強く関わる課題として興味深いものも多数存在する。研究の中心が発散しないように注意を行いつつも、これらの課題について研究体制を構築し研究を展開し、全期間を通した総括を行う。
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Research Products
(106 results)