2016 Fiscal Year Annual Research Report
ステムセルエイジングのエピジェネティクスとストレスシグナル
Project Area | Establishing a new paradigm of the pathogenesis of diseases through the understanding of stem cell aging |
Project/Area Number |
26115002
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
岩間 厚志 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (70244126)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 冬木 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (30184493)
|
Project Period (FY) |
2014-07-10 – 2019-03-31
|
Keywords | 造血幹細胞 / エピジェネティクス / ストレスシグナル / エイジング / 造血器腫瘍 |
Outline of Annual Research Achievements |
①若年齢と加齢マウスの造血幹細胞 (HSC) のRNAシークエンスと、造血幹・前駆細胞のPRC2ポリコーム修飾H3K27me3のChIPシークエンスデータから、遺伝子発現プロファイルの加齢変化が明らかに示された。その要因の一つとして、HSCにおいてH3K27me3で発現が抑制されるPRC2標的遺伝子の発現が有意に亢進することが確認された。加齢に伴う様々なストレスがこのエピジェネティック変化に関わるものと考えられ、その同定を進めつつある。②造血幹細胞にPRC1構成因子Bmi1を強制発現させたマウスにおいて、加齢においても自己複製活性は若齢時と同等に維持されることを確認した。これは、幹細胞の加齢変化におけるポリコーム機能の重要性を支持する。③高齢者に好発する造血幹細胞腫瘍には、PRC2構成遺伝子(EZH2等)の機能喪失型変異や発現低下が高率に認められ、PRC2機能低下の関与が想定されていた。Ezh2欠損造血幹細胞の解析から、PRC2の機能低下が高齢者造血幹細胞腫瘍発症の誘因となること、さらに、これらの腫瘍に頻度の高い変異遺伝子の造腫瘍性を増強することを明らかにした。これは、幹細胞の加齢にともなうポリコーム機能の低下がdriver変異を獲得した加齢造血幹細胞がクローン拡大する際のエピゲノム要因となっている可能性を示唆しており、造血幹細胞腫瘍発症におけるステムセルエイジングの意義を支持するものである。④DNA損傷チェックポイントキナーゼの活性化が多能性幹細胞と分化細胞で異なることを明らかにした。この知見を組織幹細胞で確認するために、同じ遺伝学的背景のマウスにおいて、異なる組織で特異的にDNA二本鎖切断を1箇所だけ誘導する系の確立に必要なES細胞を作成した。現在マウスを作成中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究としては概ね順調に進んでおり、期待通りの成果が得られている。予想していなかった成果も得られている。例えば高齢者に特異的に発症する骨髄線維症の原因遺伝子であるJAK2V617Fを発現するマウスにおいて、加齢幹細胞において機能低下が認められるEzh2遺伝子を欠損させると、この病態が著明に増悪することが明らかとなった。この2つの遺伝子の変異はこの病態においてよく共存するものであり、ヒトの病態をよく反映した所見である。このマウスの造血幹・前駆細胞のエピゲノム解析から、H3K27me3の低下に伴い、H3K27が高度にアセチル化されることを見出した。このアセチル化マークはエンハンサー活性を増強し、遺伝子発現を活性化する。実際、活性化される遺伝子群の中にがん遺伝子が含まれていることを確認した。そこで、アセチル化リジンに結合する転写伸長活性化因子の結合を阻害するブロモドメイン阻害剤をマウスに投与したところ、がん遺伝子の発現が抑制され病態が改善することを見出した。これは加齢関連造血幹細胞腫瘍の新しい治療アプローチとなりうるものであり、プレスリリースを行った。研究遂行上での問題点としては、加齢マウス(20ヶ月以上)を十分用意するのに時間を要したことと、遺伝子操作マウスの解析もまず加齢させる時間が必要なため、計画によっては解析が遅れる傾向にあることが挙げられる。現在は、加齢マウスを十分使用することが可能である。しかしながら、遺伝子操作マウスの解析にはやはりマウスを加齢させる時間を要することは同様である。 また、石川が進める、同じ遺伝学的背景のマウスにおいて異なる組織で特異的にDNA二本鎖切断を1箇所だけ誘導する系の確立については、近年のCas9/gRNAの系の進歩を考慮し、当初予定していたSce-Iによる切断からCas9/gRNAの系に変更し、マウスの作製を行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1) 加齢に伴うポリコーム標的遺伝子群の発現亢進に関わるエピゲノム要因を、造血幹細胞を用いたChIPシークエンスにより明らかにする。また、加齢に伴うエピジェネティックリプログラミングに関わるストレスシグナル、特にポリコーム修飾のリプログラミングを誘導するシグナルを同定する。2) Vav-1-Cre;Rosa26StopFLBmi1を用いた造血幹細胞におけるBmi1の強制発現の効果を理解するため、加齢造血幹細胞を用いてBmi1とH2AK119ub1のChIPシークエンスを行い、自己複製活性維持に重要なBmi1の標的遺伝子を明らかにする。3) これまでの解析から、幹細胞の加齢変化におけるポリコーム機能の低下が高齢者における造血幹細胞腫瘍の発症・進展に深く関与することが示唆されている。そこで、造血幹細胞腫瘍発症におけるステムセルエイジングに伴うエピゲノム変化の意義を検証するために、ドライバー変異としてTet2を造血細胞特異的に欠損しうるマウス (eR1-Cre;Tet2fl/fl) を作成し、Tet2を若年齢(10週)と中間齢(12ケ月)に欠損させ、その後、造血幹細胞腫瘍の発症に要する期間と表現型、ならびにエピゲノムプロファイルの違いを検証する。4) 特異的にDNA二本鎖切断を1箇所だけ誘導しうるES細胞を樹立し、マウスを作製中である。この同じ遺伝学的背景を持つマウスにおいて、ゲノムの同一部位にDNA二本鎖切断を誘導した際に生じるDNA損傷反応を、組織幹細胞と分化細胞で比較検討し、幹細胞におけるDNA損傷反応の特性を明らかにする。
|
Research Products
(8 results)
-
[Journal Article] Impact of combinatorial dysfunctions of Tet2 and Ezh2 on the epigenome in the pathogenesis of myelodysplastic syndrome.2017
Author(s)
Hasegawa N, Oshima M, Sashida G, Matsui H, Koide S, Saraya A, Wang C, Muto T, Takane K,Kaneda A, Shimoda K, Nakaseko C, Yokote K, Iwama A.
-
Journal Title
Leukemia
Volume: 31
Pages: 861-871
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
-
-
[Journal Article] Setdb1 maintains hematopoietic stem and progenitor cells by restricting the ectopic activation of non-hematopoietic genes.2016
Author(s)
Koide S, Oshima M, Takubo K, Yamazaki S, Nitta E, Saraya A, Aoyama K, Kato Y, Miyagi S, Nakajima-Takagi Y, Chiba T, Matsui H, Arai F, Suzuki Y, Kimura H, Nakauchi H, Suda T, Shinkai Y, and Iwama A.
-
Journal Title
Blood
Volume: 128
Pages: 638-649
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
-
-
-
-
-