2014 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質分子の動きを観るために結晶中に創り出した隙間を利用する新発想結晶解析
Project Area | Novel measurement techniques for visualizing 'live' protein molecules at work |
Project/Area Number |
26119002
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
神田 大輔 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (80186618)
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Project Period (FY) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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Keywords | 蛋白質 / 動的構造 / X線結晶解析 / ミトコンドリア / シグナル配列 |
Outline of Annual Research Achievements |
“隙間”をタンパク質結晶格子中につくり,結晶コンタクトによる「柔動構造の変形・固定問題」を解決し,タンパク質の一部あるいはリガンドが動いている状態の「振幅の大きさ=空間スケール」を実験的に決定する手法の開発を進めている.実現のための技術要素は,①タグタンパク質との融合タンパク質の作製,②タグタンパク質と対象タンパク質を一本の長いヘリックスを用いて硬く接続,であり,さらに親和力の弱いリガンドの場合は,③占有率を保障するために共有結合を用いて,リガンドを対象タンパク質にテザリングする.隙間に位置したタンパク質の一部あるいはリガンドの動きを視覚化するために,該当部分に対応するモデルをオミットして作成した差フーリエ電子密度マップを用いる.適用する対象として,ミトコンドリアプレ配列受容体であるTom20タンパク質に結合した状態のプレ配列ペプチドの大きな運動性を定量的に解析する.タグタンパク質としてマルトース結合タンパク質(MBP)を用いる.過去に電子密度マップのノイズ低減にローパスフィルターを用いることが有効であることを示した. 今年度は構造精密化計算のオーバーフィッティングを防止するためのFreeR手法を改良する必要があることがわかった.通常のFreeR計算では計算の検証に使うために,あらかじめ少数の構造因子を除外して構造計算に使わない.使用するデータの数が減るために電子密度の質は必然的に低下するが,動きが小さい原子ではその影響は無視できる.しかし,運動性の大きな原子では影響が無視できないことを見いだした.解決策として5%のFreeRセットを使うと20通りのFreeRセットを作ることができるので,20個の独立した構造計算を行うことができる.その結果作製できる20個の電子密度マップの平均を計算することで,FreeR計算の影響を取り除けることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去の研究において,差電子密度マップにTom20タンパク質に結合したプレ配列ペプチドに対応する電子密度を得ることに成功していたが,再現性の確認や得られた電子密度の検証,さらに電子密度マップのシグナルノイズ比の向上を達成するための努力を続けてきた.良い回折データを与える結晶の再現性がとれずに苦労していたが,凍結の際に注意することで再現性を改善することができた.こうした地道な努力により,次年度以降に本技術を本格的に運動性解析に使うための測定・解析の準備が整った.
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Strategy for Future Research Activity |
差フーリエオミット電子密度マップのシグナルノイズ比の向上を目指して,長波長X線測定(通常の0.9 - 1.0 Aに対して,1.5 Aより長いX線を用いる),室温X線回折測定,差フーリエマップのデンシティモディフィケーション計算,多数の結晶を使って作った電子密度マップを積算する方法を検討する.長波長X線測定によりマップの質が改善する可能性を数年前に見いだしていたが,結晶の再現性やFreeRの問題のために確証が得られていなかった.また,室温測定についてはシンクロトロンで予備実験を行い,(予想に反して)クライオ条件と比較できる良いデータが得られる可能性が高いことがわかった.得られた電子密度の分布をクライオ凍結結晶と室温結晶で比較することで興味深い結果が得られると期待している. 本法の適用をMBP-Tom20以外の系に広げる.オリゴ糖転移酵素はN型糖鎖付加配列のアスパラギン残基にオリゴ糖鎖を転移する活性を持つ.この時,酵素は糖鎖付加配列中の3番目のセリン・スレオニン残基の側鎖を認識するポケットを用いて,糖鎖付加配列を認識することがわかっている.このポケットを構成するアミノ酸残基を含む20残基程度のセグメントが大きな運動性を持っていることがわかっているので,MBPとの融合タンパク質をつくり,このセグメントの大きな振幅運動を可視化することを計画している.
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