2002 Fiscal Year Annual Research Report
細胞情報伝達過程における蛋白質の動態と機能の一分子同時観察
Project/Area Number |
00J01914
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上村 武 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 細胞内情報伝達 / 上皮成長因子 / カルシウム応答 / 定量 |
Research Abstract |
本研究では、細胞の増殖、もしくはその抑制を引き起こすepidermal growth factor (EGF)とその受容体蛋白であるEGF receptor (EGFR)に注目し、細胞に対する情報の入力を正確に制御すると共に、その結果生じる出力のひとつである細胞内カルシウム濃度変化(Ca^<2+>応答)も正確に測定することで、細胞内における情報伝達過程を定量的に理解することを目的とした。 実験では、蛍光標識したEGFを用い、細胞に結合した蛍光標識EGFの数を1分子顕微鏡で数えることで、EGFの結合量を定量した。細胞内Ca^<2+>濃度変化はCa^<2+>蛍光指示薬を用いて測定した。入力と出力の定量を同一の細胞で測定することにより、細胞内における情報伝達過程をより定量的に捉えることが可能になった。また、従来の方法では細胞下部のカバーグラスとの接着面だけでしか1分子観察できなかったが、細胞の大部分で1分子観察を可能にする高感度な1分子顕微鏡を実験の過程で開発し特許を出願した。この1分子顕微鏡は蛍光標識リガンドを用いた他の細胞生物学的研究でも広く応用が可能である。 本研究により明らかになったことで最も重要なのは、1細胞あたり150個以上のEGF分子が結合するとCa^<2+>応答が引き起こされるということである。この分子数は細胞に発現している受容体の分子数の100分の1以下であり、細胞の情報伝達システムが非常に高感度であることの結果であると考えられる。 生体内で機能する蛋白分子を同定し、どの蛋白分子間で相互作用が起きているかを明らかにすることで分子生物学は非常に大きな研究成果を上げてきた。細胞を情報伝達システムと考えてこれを理解するには、これらの成果を基にして、今までほとんど明らかにされてこなかった蛋白質による情報伝達の定量的な関係を明らかにしていくことが重要である。この情報伝達の定量的な研究は今後の生命科学研究の重要な分野のひとつになっていくものと思われる。本研究は細胞応答に必要なリガンドの分子数を生きた細胞で初めて直接測定したことで、情報伝達の定量的な研究の基礎のひとつになり得ると考えられる。
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Research Products
(1 results)