Research Abstract |
最終年度において実施した研究成果を以下に列挙する. 1.実験目的は,近交系マウスBALB系統の仔殺し雄が,交尾した相手の雌が妊娠して出産するまでの期間に仔殺しを抑え続けるのか,それとも雌の出産予定日を計算することによって仔育てへと転換するのかを検証することである.実験前に行われたテストにおいて選別した仔殺し雄46匹と雌63匹を実験に用いて,別居群AとB,同居群と性的未経験群の4群に分けた.各群の仔殺し雄マウスは,実験開始後第2回目のテストが4日目に,第3回目のテストが12日目に,第4回目のテストが20日目に,それぞれ反復して行われた.結果を要約すると,以下の通りである; (1)別居群Aの仔殺し雄マウス(7匹)は,交尾後4日目のテストにおいても仔殺し傾向が見られた.この傾向は,交尾後12日目のテストにおいて減少したが,この群の仔殺し雄マウスは,交尾後20日目になると,すべて仔育て行動を現した。このような事実は,仔殺し雄マウスが交尾した相手の雌の出産予定日には,仔殺しから仔育てへと完全に転換したことを示している. (2)別居群Bの仔殺し雄マウス(11匹)は,4日目のテストにおいては,仔殺し率がやや減退しただけであり,その後12日目と20日目のテストにおいては,仔育て行動を現した個体数は約半数であった.これらの仔殺し雄マウスの内,仔殺しを現し続けた個体と仔育て行動に転換した個体とが,射精したか否かの確認は行っていないが,仔殺し雄マウスが発情間期の雌マウスと同居するだけでも,仔殺し雄マウスは出産間近になるにつれて仔育てに転換することを示している. (3)同居群の仔殺し雄マウス(9匹)は,4日目と12日目のテストにおいても仔殺し行動を現す個体がいたが,傾向としては別居群よりも少い.しかし,20日目のテストにおいては,すべての仔殺し雄マウスが仔育て行動を現した. (4)性的未経験群の仔殺し雄マウス(10匹)はすべて,3回のテストを通して仔殺し行動を現し続けた.実験終了後,この群の仔殺し雄マウスは発情雌と同居させて,生殖能力がテストされた. 2.3年間の研究成果は,公表した著書および論文を一部加筆修正して,まとめた.これらの成果を踏まえて,今後は利他行動の比較心理学的考察を刊行する予定である.
|