Research Abstract |
さらに多数例の小児悪性固形腫瘍において,Pー糖蛋白の発現と予後との関係を検討した。東京大学小児外科と埼玉小児医療センタ-外科で経験した小児悪性固形腫瘍91例について,免疫染色法にてPー糖蛋白の発現と予後との関係を検討した。91例中43例にPー糖蛋白の発現が認められた。個々の腫瘍における陽性例は,神経芽腫31/64,ウイルス腫瘍5/11,卵黄嚢癌4/6,横紋筋肉腫2/3,末分化胚腫1/1で,肝芽腫,肺芽腫,脂肪肉種においては,陽性例は認められなかった。全症例中,腫瘍死した者は25例で,このうちPー糖蛋白陽性例は神経芽腫6例,横紋筋肉腫1例であった。神経芽腫においては,Pー糖蛋白陽性例はむしろ良好な予後を示すことを既に報告したが,その他の腫瘍においては予後との関係は明らかでなかった。しかし,少なくともPー糖蛋白の発現が,薬剤耐性の発現や不良な予後とは相関していないと考えられた。 化学療法により,Pー糖蛋白の発現が誘発されるか否かの検討を目的として,ヌ-ドマウス移植系神経芽腫を用いて,実験的化学療法を行い,その前後でPー糖蛋白の発現に差が認められるか,検討を行った。実験的化学療法に用いた薬剤は,CDDP,THPーADR,CTX,VCRの4種である。この結果,化学療法前にはPー糖蛋白の発現は認められなかったが,CDDP,VCRの2種の薬剤については,化学療法後の腫瘍において,Pー糖蛋白の発現が認められた。これは小児悪性固形腫瘍においても,化学療法によってPー糖蛋白の発現による多剤耐性が誘発される可能性を示したものと考えられる。さらに他の薬剤,他の投与法によってもPー糖蛋白の発現が誘発されるか否かを検討する予定である。
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