Research Abstract |
本年度は,脳腫瘍15例に対し染色体分析を行った。分裂中期細胞を得られたものは10例であった。特に核型分析可能であったmalignant gliomaは6例であった。特異的な数的および構造異常は決定できなかった。#2,#3,#9,#12,#14での構造異常が比較的多く観察されたが,個々の転座切断点は一致しなかった。本分析において,前年度のLOHの検索で欠失を確認した#10,さらにp53との関係から注目される#17の,全欠失および部分欠失はなかった。3例にdmin,1例にHSRが,いずれも再発例,予後不良例に認められた。dmin,HSRはともに遺伝子増幅の染色体変化と考えられており,これらの症例では何らかの遺伝子増幅が起こり,腫瘍の悪性度を増したものと示唆された。個々の切断点は,一部染色体脆弱部位と高率に一致したが,前年度,gliomaでの増幅,発現を確認したcーmyc,Nーmyc,fos,sis,erbB等の遺伝子座と一致する症例はなかった。一方,個々の症例からみると,bilateral retinoblastomeの治療後11年目に発生したmalignant gliomaにおいて,#7,#12を中心とした転座異常が確認された。Bignerらは孤発例で高頻度に#7の過剰,#10の欠失,#9の構造異常を報告しているが,本例ではこれらを認めず,腫瘍発生機構の相異が示唆された。glioma以外では,immature teratomaにおいて+der(11)t(1;11)(q11.2;p15.5)の単独の異常が観察され,生殖器原発のgerm cell tumorに特異的とされるi(12p)は認めなかった。11p15.5はHーras遺伝子座であり,本遺伝子とder(11)異常との関連が示唆された。malignant schwannomaでは,4q+,7p-,11p+,i(17q)Xq-等の構造異常が認められた。#17には,p53に加えNF-1の責任遺伝子があり,本症でのi(17q)異常の出現は注目に値する。すでに我々は染色体特異的DNAマ-カ-をプロ-ブとしたFISH法を開発しており,今回研究の成果をもとに,今後は本手法を導入し,分裂中期細胞に加え,間期核染色体分析を推進してゆく予定である。
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