1989 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01510017
|
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
宮下 晴輝 大谷大学, 文学部, 専任講師 (70148360)
|
Keywords | クシャ-ナ / アビダルマ / 阿毘達磨大毘婆沙論 / 説一切有部 / 般若経 |
Research Abstract |
本研究の目的は、インドのクシャ-ナ時代、特にカニシカ王の治世の時にカシミ-ルで編纂されたと伝承されている『阿毘達磨大毘婆沙論』に代表される説一切有部の教義学、いわゆるアビダルマ教義学の形成過程についての研究である。カニシカの年代については、まだ定説はないが、ほぼ西暦紀元後2世紀と考えてよいだろう。仏教教義学の歴史にとって、この時代はきわめて重要である。『般若経』に代表される大乗仏教が、たとえば初期般若経系から後期般若経系へと展開しつつあり、その固有の教義学が生み出されていた時期といえる。それと時を同じくして、自ら正統的とみなすいわゆる部派仏教の代表格、説一切有部の教義学の集大成が試みられたことになる。このことが意味することは重大である。というのは、従来の教義学の研究においては、中国より伝承された法相宗の立場を出ることはなかった。その立場とは、説一切有部の教義学とは小乗仏教のそれであり、その教義の展開は小乗の教義の中でその教義自身の要請にもとづいて行なわれたと見るものである。つまり、説一切有部の教義学を孤立した展開系の中において見ようとするものである。そしてその背景には、小乗と大乗の教義はまったく別個のものであり、後者は前者に対しはるかに優れたものとする見方がある。この立場の優劣を問うという伝統的な方法論の枠組みが、いまなお、仏教研究を支配している。本研究は、説一切有部の教義学を、孤立した展開系の中に置かず、大乗仏教との緊張関係の中に見て行こうとするものである。本年度の成果の一つとして、説一切有部の教義学が、『阿毘達磨大毘婆沙論』に至って非常に大きな変容展開を成し遂げていることが明らかになったということである。それがどういう事情に基づくものかを今後さらに明らかにして生きたい。
|