1989 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01510103
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宝月 誠 京都大学, 文学部, 教授 (50079018)
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Keywords | 企業逸脱 / 道義的逸脱 / 構造的逸脱 / 不確実性 / 社会統制 / 医療活動 / システム |
Research Abstract |
企業逸脱と社会統制をめぐる主な論点は、(1)企業逸脱の社会的定義、(2)企業逸脱を伴う社会生活のシステム上の特徴及びその構成・維持・適応過程、(3)企業逸脱とそれへの社会統制が社会生活の変動に及ぼす影響の分析にある。本研究は、多様な企業逸脱の中でも特に医療に関連した企業活動(医薬品の製造・販売や病院での治療・看護)を対象にし、先のテ-マの内(2)に関して、一連の文献や調査資料を用いて行なった。 これら企業活動で生じる逸脱は二つのタイプに分けられる。一つは不注意や手抜きや安全性の無視など「道義的逸脱」である。いま一つは不確実性に起因する「構造的逸脱」--つまり、活動に伴うリスクの制御を怠ったために生じたとみなされる逸脱--である。前者のような逸脱はどのような社会生活でも起こる。重要な点は、その再発を少なくするシステムを作ることである。医療の世界では、道義的逸脱に関する情報が統制者を含めて関係者内部だけに閉じこめられ、可視性が低くなるだけでなく、逸脱は例外的・特殊なケ-スとして処理される。そのため有効なフィ-ドバックのメカニズムが作動せずに、逸脱が繰り返される。 他方、構造的逸脱は、いずれの関係者もそれを不可避的なこととして半ば正常視している。医薬品企業は不確実性の制御の権限と基準の設定を外部統制者(厚生省や審議会)に委ね、その基準だけをクリア-しようとする。「不確実性をコントロ-ルする者はパワ-をもつ」という法則によって、企業は官僚統制に服従する。あるいは官僚に働きかけ企業活動に好意的な環境を作ろうとする。医師などの有力な専門家集団はこうした外部統制は拒否するが、それに代わる内部統制は確立されていないし、その必要もあまり認識されていない。医療活動における二つの逸脱に対する積極的な制御は、そのシステム内に現状ではビイルト・インされていない。
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