1989 Fiscal Year Annual Research Report
地域の多元的社会構造が地域問題の処理に与える影響の総合分析
Project/Area Number |
01510111
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
河村 望 東京都立大学, 人文学部, 教授 (60086923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺田 良一 都留文科大学, 文学部, 助教授 (00163923)
高橋 和宏 東京都立大学, 人文学部, 助教授 (40117718)
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Keywords | 伝統 / 近代化 / 工業化 / 同族団 / 資本主義 / 神道 / 共同体 / 家族 |
Research Abstract |
本年度は静岡県下田市、長野県岡谷市、千葉県山武郡横芝町の三地域における、地域社会構造の持続性と変化について、実証的な研究をおこなった。とくに、日本社会全体における伝統と近代化が、それぞれの地方において、具体的にどのようにあらわれたかを検討した。 これまで、近代化は、普遍的な合理化の過程としてとらえられ、近代化がすすめばすすむほど、地域社会の固有の伝統は消滅するものとみなされていた。日本では、近代化は具体的には西欧化の過程にほかならなかったのである。 だが、地域社会を詳細に調査すれば、このような一般的図式は地域のレベルでは成立していないことが分かるのである。地域においては生活の持続、統合がめざされているのであり、近代化は伝統の存続の手段にすぎないのである。この点を、岡谷市の製糸業についてみれば、幕末の開国以降、輸出品として生糸がつくられるようになり、製糸業における「下から」の資本主義化がみられた。 しかし、そのときでも、製糸業はなによりもまず家業としておこなわれ、片倉製糸のように大きくなっても、片倉同族団の仕事としておこなわれたのである。労働者と資本家は、敵対するものとしてあるのではなく、労働協業集団のなかのオヤ・コ、オヤカタ・コカタの内係として、すなわち、指導者と従者の内係としてあったのである。 そして、日本では、このような生活における共同は文化的伝統として存続していき、いわゆる近代化によっては決して解体しないものなのである。このことは、諏訪地方で部落が諏訪大社のお祭りの基本単位として今なお生きていることによっても示される。また、日本では、諏訪地方に限らず、一般に、基は家の基であり、この家を基本単位として同族団が形成されているのである。
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