1989 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01510151
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
海原 徹 京都大学, 教養部, 教授 (00026824)
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Keywords | 巡回講筵 / 社会教化 / 知足安分 / 口授形式 / 講釈 / 出席強制 / 分限道徳 / 読み書き能力 |
Research Abstract |
幕府当局が取り組んだ庶民教育機関-郷校、教諭所、心学舎という本年度テ-マに関して得られた知見は、以下のとおりである。 1.この種の教育機関の育成策は、幕府天領のような庶民への締め付けが比較的緩やかな地域、そしてまた私塾、寺子屋などが早くから発達した、庶民層の教養レベルの高い地域で特色的に見られる。2.サムライ学校に見られる漢学中心の知的教科の教授にはさほど熱心でなく、むしろ道徳教育を重要視し、ひたすら知足安分の分限道徳の注入・鼓吹につとめた。3.上からの要請で始められた教育のため、出席強制を行うことが稀でなく、出入り自由の学習形態とはあまり関係がなかった。4.テキストの使用は極めて珍しく、大ていは教師の口授、すなわち説教形式をとった。5.講釈中心のため、会読、会講、討論、策問など、近世の学校に普通に見られた授業方法はほとんどなかった。6.官選教師が定期的に巡回する、つまり一回かぎりの読み切り講釈が多く、師弟間の結びつきが稀薄であった。7.サムライ学校が整備されていく過程で、逐次その周辺を穴埋めする、いわば封建学校の補完物的な役割を果たすものが多かった。8.幕末最後の時期になると、民間在野の有志者が発起した自生的な学舎も見られるようになるが、幕藩当局の支配から完全に自由なものはなく、またその教育レベルも読み・書き・ソロバンの寺子屋程度のものであり、したがってイデオロギ-的性格はほとんど認められない。9.郷校と呼称されるものの中に、武士、それも下士層を対象にした学舎があるが、多くは庶民の教育機関をも兼ねた。10.これまで強調されてきた社会教化的な役割だけでなく、読み書き能力の普及という側面も過小評価できない。11.多くは官・公立的な設立、および維持・運営の形態をとったため、維新後、容易に新設の小学校に移行していった。
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