1990 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01510151
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
海原 徹 京都大学, 教養部, 教授 (00026824)
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Keywords | 読、書、算 / 識字率 / 個別教授 / 集団学習 / 秘事口伝 / マン・ツウ・マン方式 / 生徒中心主義 / 競争主義 |
Research Abstract |
幕藩学校の周辺に位置する民間在野の自生的な教育機関を取る上げるという本年度テ-マに関して得られた知見は、以下のとおりである。1.維新期には寺子屋は1万以上、また私塾は千ちかく普及していた。2.大部分が調査漏れの諸技芸の塾のうち、武芸関係は少なくとも1500以上、医学や裁縫関係がいずれもこれに匹敵し、宗教関係も数百あったから、この種の塾のみで何千という数が見込まれる。3.前年度に見た郷校、教諭所、心学舎、それに若者・娘組などのインフォ-マルな教育活動も含めれば、庶民階級の読み、書き、計算能力の習得に関係した各種の施設はおそらく何万もを数え、その結果が相当程度の識字率につながったと思われる。4.小規模校が多いため、一斉教授よりむしろ個別教授が普通であるが、競争的な集団学習の工夫も意欲的に行なわれ、今日知れらているほぼすべてが出揃った。5.公権力に一定の距離を置いたため、教師各人の人格や識見がそのまま教育活動に反映された。学統、学派の教育観を各々の学校が正確に実現したのも、そのことと無関係ではない。6.諸技芸の塾の場合、なかんずくマン・ツウ・マンの秘事口伝的な授受がみられたが、これは教育的にはともかく、学問や研究の面ではマイナスに機能した。7.学校の設立や維持・運営が生徒主導であることが多く、カリキュラムの作成にもそうした傾向が強い。8.規模の大小を問わず、等級制の導入が遅かれ早かれ見られるが、これは競争主義の採用と関係している。ただ、そのことが点数による成績評価に直結したわけではない。9.医学や蘭学を教える専門性のつよい学校では、近代学校に類似したカリキュラムを導入したが、国学塾や諸技能の塾はこれとあまり関係がない。10.官公立学校に普通に見られた試験制度は一部の有名校を除き、ほとんど普及しなかった。
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