1989 Fiscal Year Annual Research Report
スイスにおける宗教改革運動の展開-農村の宗教改革-
Project/Area Number |
01510227
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
森田 安一 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (10033177)
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Keywords | 宗教改革 / スイス / 木版画 / 俗人説教師 |
Research Abstract |
「宗教改革運動は都市的運動であった」といわれ、都市における宗教改革研究は大きな進展を見ている。では、農村は宗教改革運動から取り残されたのであろうか。都市に宗教改革運動が展開した時期に農村でも農民は運動を起こしていたが、十六世紀のこうした農村の動きはこれまで農民蜂起・農民戦争として捉えられ、それを農村の宗教改革と位置付けることはなされてはこなかった。しかし、スイスにおける宗教改革運動の展開は、まず都市から都市へ伝播・浸透し、ついで農村へと展開したと考えられる。 農村への宗教改革運動の展開はどのようになされたのであろうか。この点を究明するには、農村の政治・経済、さらには農民の日常生活の実態や農民の意識構造などを明らかにする必要がある。これらの点のうち農村の政治・経済状況については、昭和59年度の科学研究費補助金の交付(課題番号59510179)を受けて若干の解明に努めたが、それを推し進めるため農村史料の収集に今回も努力をしたが、この点は十二分には果たせず、課題を残した。 しかし、宗教改革の思想が具体的に農村に伝播・浸透する手段・方法の観点では、当時流行した木版画に特に着目する必要を見いだした。当時の農民一般の識字率は都市の場合に比べきわめて低く、書籍による思想の伝播は考えられない。重要な役割を果たしたのは一枚刷りの木版画あるいは数枚綴じの木版画入りパンフレットであった。それが農村に流布しただけでは思想の伝達には不十分であり、それを説明した人々にも注目する必要がある。宗教改革時代に多数輩出した俗人説教師の存在である。宗教改革運動を偉大な宗教改革者だけの仕事ではなく、宗教改革の思想を農村に伝えたのはいわゆる俗人信徒のリ-ダ-たる説教師であり、彼らの行動・思想を含めた宗教改革史研究が必要である。
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