1990 Fiscal Year Annual Research Report
スイスにおける宗教改革運動の展開ー農村の宗教改革ー
Project/Area Number |
01510227
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
森田 安一 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (10033177)
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Keywords | 宗機改革 / スイス / 木版画 / 神の水車 |
Research Abstract |
宗教改革運動が農村へどのように浸透・展開されたのか究明するためには、農村の政治・経済、さらには農民の日常生活の実態や農民の意識構造などを明らかにする必要がある。これらの点については、チュ-リヒ支配下の一農村シュテ-ファを取り上げて、昨年度に一応のメドをつけた。 本年度は、宗教改革の思想が具体的に農村に伝播・浸透する手段・方法の観点から考察を進め、当時流行した木版画に特に着目する必要を見いだした。当時の農民一般の識字率は都市の場合に比べきわめて低く、書籍による思想の伝播は考えられない、重要な役割を果たしたのは一枚刷りの木版画あるいは数枚綴じの木版画入りパンフレットであったと考えられる。具体的な考察例としては、1521年春、スイスのチュ-リヒにおいて出版された「神の水車」と呼ばれる木版画入りパンフレットを取り上げた。 「神の水車」という木版画は宗教改革の基本原理である「聖書主義」を巧みに一枚の絵で表現しているが、その意味を誰にでも理解できるようよするために、中世末以来民衆が慣れ親しんできた「神秘の水車」というモチ-フが下敷きになっている。つまり、カトリックの中枢概念である受肉と聖体を描いた祭壇画や彫刻のモチ-フを「聖書主義」の理解に転用している。また、当時すでに人々のあいだで話題となっていたテ-マ・人物を一枚の木版画に配して宗教改革の主張をさらに理解しやすくしている。逆に現代の人間からするとそうした点は理解をしにくくするのもであるが、こうした点こそが当時の人々のコミュニケ-ションをきわめて容易にした点である。 このような分析を多数の木版画でも積み重ねることで、文字を知らなかった人たちにも宗教改革理念が浸透できたと考えられる。
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