1989 Fiscal Year Annual Research Report
世紀転換期におけるプラハのドイツ文学とその想像力の枠組としての都市空間
Project/Area Number |
01510289
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平野 嘉彦 京都大学, 教養部, 助教授 (50079109)
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Keywords | 世紀転換期 / 世紀末 / プラハ / ドイツ文学 / 都市空間 / リルケ / カフカ |
Research Abstract |
当初、予定していた今年度の研究計画は、世紀転換期におけるプラハのドイツ文学を、まず第一段階として作品内在的に読み、分析するというものであったが、古書および文献複写の入手状況に左右される研究の性格からして、一定の変更を余儀なくされた。すなわち、元来は次年度に計画していた地誌的、社会史的研究を、一部前倒しの形でおこなうことになった。その過程で得られた知見は、主として以下の二点に要約できる。1.本研究計画がスタ-トする以前に脱稿していた論文「死と石のトポグラフィ-」(裏面参照)においては、プラハの墓地と石切場が初期リルケとカフカの作品に共通するモティ-フになっていることをしめしたが、今年度の計画に含まれる未発表論文「世紀末・バルト海・白い船」においては、海水浴の発展史の視点から、リルケのひとつの短篇小説を考察した。世紀転換期においてはまだ比較的新しい風習であった海水浴は、元来は温泉治療の変種として考案されたものであったが、産業革命以後の急激な大衆化の波に洗われて、医療よりも娯楽、社交の場として発展しつつあった。プラハ市民に愛されたバルト海の海水浴場を舞台にしているリルケの小説「声」を読みながら、とりわけ注目した点は、医療的な配慮の形態が、同時にレクリエ-ションの管理に姿をかえて貫徹されており、世紀末の文学的自意識もまた、それと同一の構造に依拠していることである。2.これはまだ論文にまとめるに至っていないが、カフカの小説「判決」や日記の記述において、性愛のモティ-フと交通機関のモティ-フが交互に隠喩の関係をなしていることに着目した。これをプラハやカフカが訪れたパリの都市交通の発展と関連させて考察することが、当面の課題となる。
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