1989 Fiscal Year Annual Research Report
北方ルネサンス政治思想の再評価-エラスムスとトマス・モアを中心として-
Project/Area Number |
01520034
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
鈴木 宜則 鹿児島大学, 教育学部, 教授 (30041180)
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Keywords | トマス・モア / エラスムス / ルタ- / 正統 / 異端 / 寛容 / 平和 / 正戦 |
Research Abstract |
1.(1)モアにおける政治と宗教との関係は、いずれか一方が他方に優越するものでなく、両者の性格に基づく機能分担であり、前者が後者の条件を整備し、後者の精神が前者の質を高めるという意味で相補的である。したがって、政治が宗教を管轄するヘンリ8世の政策をモアは承認し得なかった。(2)宗教と社会についてモアは、異端が公然としかも非理性的にロ-マ・カトリック教会を批難し、大衆運動となって社会秩序を破壊して人々の救済の社会的条件を危くすることに反対して正統信仰を擁護したのであり、個人的に異説を持つことがそれを聖職者らと議論することまで禁止してはいない。この意味で、前期の改革的立場から後期には保守主義者にモアが変化したという通説的理解は、批判される。2.(1)エラスムスの平和思想と宗教寛容思想には、内的なつながりがある。即ち、彼が伝統的な正戦論を否定して、人間の幸福な生活の観点から一切の戦争を正当視せず、自衛戦争だけを止むを得ず容認したのは、宗教上の真理が理性的、学問的な検討によって明らかになるという考えとともに、宗教上の争いが社会秩序を混乱させ、その前提条件を失わせると同時に、人々の有徳で幸福な生活と救済を損うと見る立場による。それゆえ、両者はエラスムスの中で内的に結合している。(2)彼がルタ-を時には支持し、1524年に至るまで公然と批判しなかったのは、よく言われるように彼が新旧両陣営からの攻撃を避けて逃げ回ったのではなく、何よりも、いつ、どうすることがキリスト教世界のためになるのかを慎重に考えたことによるものと解される。3.モアのユ-トピア思想を後期の思想と対比し、カムパネッラやベ-コンのそれと比較する時、彼の独自性(複眼的、重層的思考法)と一貫性が明らかとなる。ただし、彼の場合異端判定の手続、エラスムスの場合は、自由意志論の十全な思想史的考察が本研究の最終目的のために今後の課題として残されている。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 鈴木宜則: "後期モアにおける政治と宗教" 研究年報『経済学』. 52. (1990)
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[Publications] 鈴木宜則: "エラスムスの宗教寛容思想" 社会思想史研究. 15. (1991)
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[Publications] 伊達功: "伊達功教授退官記念論集" 松山商科大学, (1991)