1991 Fiscal Year Annual Research Report
予算過程における情報の機能と公共支出の社会的評価に関する理論的研究
Project/Area Number |
01530053
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池上 惇 京都大学, 経済学部, 教授 (30025184)
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Keywords | 予算過程 / 公共的意思決定 / 固有価値 / 知的資産 / 情報ストック / インフラストラクチャ- / 経済人 / 社会的評価 |
Research Abstract |
本年度は3年間にわたる本研究の総括として次の諸点を解明し、以下の成果と今後の課題をあきらかにした。 1.研究の成果.最大の研究成果は意思決定過程、とくに公共的意思決定過程における情報ストックの機能を理論的に解明したことである。從来の予算過程論において公共的意思決定の理論を応用した場合、情報の機能は納税者を経済人と想定した上で、公共サ-ビスと租税負担の関係、組合わせを選択するために必要な情報の伝達(及び、その時間と費用)に限定されてきた。しかし、A、センも指摘する通り、公共的意思決定において、投票者の行動の動機を経済人の仮定の範囲内に限定するのは過度の単純化であって、私的利益の追求による判断のみならず、公共性をもあわせて考慮した社会的評価を参考とした判断もまた、重要な役割を演ずる。本研究では、このような社会的評価の形成過程を考察するにあたって、J.ラスキンらが原発した固有価値の概念と、固有価値を享受(受容)する能力をもった投票者の概念を吟味し、再構成をおこなった。すなわち、固有価値とは、人間が、過去の自分たちの行動を媒介として継承した知的資産であり、物貭とエネルギ-をコ-ディネイトして人間の生命の進歩に貢献しうる財やサ-ビスを生産する原動力である。この知的資産を人間が生産、生活、市民社会などのなかに生かして各人の個性を相互に生かしあうとき、公共部門の供給するインフラストラクチャ-への適切な資源配分がおこなわれうる。知的資産は一種の情報ストックとして固性を相互に生かし合う市場システムとインフラストラクチャ-の調整をおこなう。 2.今後の課題 公共的意思決定における知的資産の機能をより深く解明するには、この概念を計測可能なものとする必要があり一層の研究をすすめたい。
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[Publications] 池上 惇: "A.セン潜在能力の経済学とケインズ革命" 経済論叢. 146ー1. 56-73 (1990)
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[Publications] 池上 惇: "社会資本論から学んだこと" 財政学研究. 16. 5-8 (1991)
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[Publications] 池上 惇: "地域社会の活性化と文化経済" ほくとう. 21. 7-10 (1991)
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[Publications] 池上 惇: "財政学の対象と方法" 日本財政学会第48回大会報告要旨集. 148. 155-158 (1991)
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[Publications] 池上 惇: "文化経済学の視座からメセナを考える" コミュニケ-ション. 34. 22-24 (1991)
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[Publications] 池上 惇: "固有価値の経済学ーその生産と実現の条件および結果に関する研究" 経済論叢. 147. 1-20 (1992)
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[Publications] 池上 惇: "財政学ー現代財政システムの総合的解明ー" 岩波書店, 326 (1990)
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[Publications] 池上 惇: "経済学ー理論・歴史・政策ー" 青木書店, 256 (1991)