Research Abstract |
本年度の研究では,木材・木質材料の細胞壁が微生物の体外分泌酵素によって劣化した部位を微小欠陥部として取りあげ,これの形態的特徴と力学的性質に及ぼす影響について検討した。本研究では,とくに微生物による欠陥部の発生を抑制する新らしい手法(キトサンを用いた防腐処理法)の開発に係わる基礎的研究に重点をおいた。2%乳酸水溶液に溶解した1.5%高分子キトサン溶液を均一に塗布したブナ板目切片を,3種の木材腐朽菌(COV,TYP,SEL)と5種のカビ類(AUP,GLV,PEF,ASN,RHJ)で強制的に劣化促進試験を行い,無処理のものと比較した。劣化部位の形態的特徴ならびに破断形態をSEMで観察するとともに,処理および無処理試験片の強度的特性(縦引張強度,縦引張ヤング率,破壊までの仕事量)の変化を,劣化促進期間中1週間毎に調べた。その結果,以下の結論を得た。(1)キトサン処理試験片では,木材腐朽菌やカビ類の生育が著しく抑制され,とくに白色腐巧菌のCOV,褐色腐朽菌のSEL,カビ類ではAUP,GLV,RHJにおいて,その効果は顕著であった。(2)キトサン処理試験片では,強制劣化後もSEM観察した限り,道管・木繊維内腔表面に何んらの腐朽跡も観察されず,また菌糸の付着跡も認められなかった。さらに壁破断形態も健全のそれと同じであった。これらのことから,キトサン処理は,木材の微生物による微小欠陥部の発生を効果的に抑制することが分った。(3)無処理試験片では,COV,SELによる3週間腐朽で強度的性質が急激に低下したのに対して,キトサン処理試験片では5週間腐朽においても健全材と同等であった。以上のことから,キトサンは市販の化学防腐剤とは全く異なり,無害の天然系素材でありながら,木材・木質材料を腐巧する微生物による酵素的劣化を顕著に抑制できることが判明した。
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