1990 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の概日リズムに関与する光受容体の同定と作用スペクトルの測定〜その生態的意義〜
Project/Area Number |
01560273
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
塚原 保夫 東北大学応用情報学研究センター, 文部教官教授 (60004587)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
磯野 邦夫 東北大学応用情報学研センター, 助手 (70124550)
尾田 義治 東北大学, 名誉教授 (30005996)
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Keywords | 体内時計 / 光受容器 / 昆虫 / ショウジョウバエ / 複眼 / 光 / 位相反応 / 歩行活動 |
Research Abstract |
概日時計の基本的な挙動を観察するさい、神経系の活動に基礎を置く事象を指標にする場合には、出来るだけ神経活動として低位のものを用いる必要がある。我々は、ショウジョウバエの歩行活動を採択したが、各種の光走性などの光に対する直接の反応や光活動性、そして概日リズムによる活動性の変化などの、混在する行動によって時計の実態は曖昧になる。そのため、通常は連続暗黒下でフリ-ランニング時のみに観察可能な概日リズムによる活動性の変化のみを刺激の強度を変えLD下で観察する事を試みた。まず、LD下でもっとも活動性が低下している時期に15分の光照射を与える。この光強度が充分強ければ、(1)光照射中歩行活動(光活動性と思われる)が誘起され、(2)さらに歩行活動に位相のずれが起こる。光を弱くしていくと位相のずれを起こさなくなっても光照射中歩行活動は誘発される。これら二つの反応の闘値が異なることから光受容器官が異なる事が示唆される。鼓舞器官として古来単眼が挙げられているので単眼のみがあって複眼のない突然変異体(ey^m)を用い実験を行なった。光活動性が維持される事が予測されたが予測に反して位相のずれが起こる光強度でも光照射中に歩行活動は起こらなかった。この事により1)概日時計の光受容器官は複眼ではない。2)光活動性は複眼による。と言う事が第一作業仮説として結論された。さらに、複眼も単眼もない突然変異体を用いて位相のずれのみが起こる事を確認し、概日時計の光受容器官は、通常の視覚系ではないことが結論された。このときの歩行活動は単一のフラクタル指数で特徴づけられることから、LD下の歩行活動はランダムである事が推論され、目的をもった行動ではなく、神経系の非特異的な活性の変化による可能性が指摘される。合目的かどうかは、今後の研究に待たねばならないが、ショウジョウバエの運動が必ずしも情報を持った行動であるわけではない事が結論された。
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[Publications] 磯野 邦夫・尾田 義治・伊藤 彰則・本郷 哲・宮内 雅夫・原田 敦・武蔵 昭一・塚原 保夫: "生体概日周期活動の長期自動記録とその解析システム." 応用情報学研究年報. 15. 155-166 (1990)
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[Publications] 磯野 邦夫・塚原 保夫・後藤 麻木・海老原 史樹文: "マウス網膜レチノイドの日周変動とその遺伝的変異." 生物物理. 30. S54 (1990)
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[Publications] 香坂 昌紀・塚原 保夫: "中国史上の蝗害と記録された蝗の生態観察について" 応用情報学研究年報. 15. 121-153 (1990)
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[Publications] 塚原 保夫・磯野 邦夫・尾田 義治: "ショウジョウバエ概日時計原始視覚系の局在." 生物物理. 29. S255 (1989)
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[Publications] Y.Tsukahara,I.Gleadall,T.Hariyama: "Outbreaks of locust swarming may be caused by two chronobiological deficiencies." Zool.Sci.6. 1104 (1989)
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[Publications] 塚原 保夫・香坂 昌紀: "清史稿「災異志」による清代大蝗の地理的分布" 応用情報学研究年報. 14. 93-100 (1989)
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[Publications] Y.Tsukahara,I.Gleadall,T.Hariyama,(Eds,J.Erber et.al.)共著: "Neural Mechanisms of Behavior (Gregarization in Locusta migratoria is related to uncoupling of the circadian clock during development.)" George Thieme Verlag,Stuttgart, 1 (1989)