Research Abstract |
1.研究経過:心臓手術患者(10〜71才,平均48才,31人)より摘出した右心耳(約1cm^2)を正常Tyrode液中で細切,collagenase,protease,KB液等にて処理し,ヒト心房筋細胞の単離を試みた。しかし,パッチ電極による膜電位固定法実験が出来た細胞数は、31症例中4個に過ぎず,単離細胞回収率が非常に悪かった。また4個の中3個は無Ca^<2+>液で潅流しなければ細胞が劣化して実験不能となった。単離に成功した最良の細胞においても,内向き整流K^+電流,Na^+電流,一過性外向き電流は記録出来たが,当初から心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の作用を検討しようと考えていたCa^<2+>電流(I_<ca>)は,一過性外向き電流に隠れて十分観察出来なかった。この様な経緯で,当初の実験計画を次の如く多少変更せざるを得なかった。すなわち,(1)単離した細胞が生理的であることを証明する意味で,ANPに代え作用機序の明らかなacetylcholine(A)とnicorandil(N)の効果を検討すること,(2)1.2×0.6mm大の櫛状筋標本で,K^+及びNa^+選択性微小電極を用い細胞内K^+とNa^+活性を測定することにより,本標本の静止電位脱分極発現の機序を解明すること,にした。2.実験結果:(1)無Ca^<2+>潅流下,保持電位ー40mVでー120mVから+60mV,500msecのパルスを加えた時,500msecでの電流対電圧曲線を求め,対照と薬剤存在下で比較した。A(50μM)は,ー80mVより脱分極側では外向き電流を,過分極側では内向き電流を増加させ,予想通りACh誘発電流が活性化され,我々の細胞単離法の妥当性が示された。一方N(50μM)でも,ATP感受性K^+電流活性化を介して作用が発現したと思われる結果が得られ,上記の考えが支持された。(2)細胞内K^+とNa^+活性測定実験は成功し,本標本脱分極の原因は,膜のNa^+透過性/膜のK^+透過性(P_K)の増大,中でもP_Kの減少に由来することが判明した。3.研究の展望:研究の当初の主題(ヒト心房筋細胞のI_<ca>に対するANPの効果)の解明は年度内に出来なかった。今後の課題である。
|