2002 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の交尾器進化における雌の繁殖戦略の役割―ハサミムシ目を中心に―
Project/Area Number |
01J02404
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
上村 佳孝 東京都立大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 繁殖生態学 / 進化生態学 / 精子競争 / 性選択 / 交尾器形態 / ハサミムシ類 |
Research Abstract |
ハサミムシ類は雄の交尾器形態に著しい多様性が観察されている。本研究では、このような多様性と、雌の繁殖戦略、特に雌が複数の雄とつがうという現象との関わりに重点をおいて調査している。本年度の研究において、以下の諸点が明らかとなった。 コバネハサミムシの雌は産卵の都度に交尾しなければ,貯蔵精子が枯渇してしまい,結果として艀化率や産卵数の低下が起きることが昨年度までの研究で明らかとなった。しかし,今年度,ビデオ記録装置を援用して,本種の交尾行動を詳細に分析した結果,一晩あたりの交尾回数は数十回にも及ぶことがあり,精子の枯渇という理由のみでは説明し難いことがわかった。交尾回数と雌の貯蔵する精子数の関係を調べた結果,雌の貯蔵精子数は数回の交尾で飽和することが分かった。分子マーカーを用いた父性分析をおこなった結果,すでに他の雄の精子を十分に持った雌に対して,別の雄が一回交尾した場合,その雄は約2割(0.2)を自分の精子と置換できることがわかった。この値は他の昆虫類で一般に報告されている値(0.5〜1)に比べて低く,本種を特徴づける。すなわち,雄は一回の交尾では,十分な精子置換が達成されず,出会った雌に対して何度も交尾をおこない,このことにより多くの子孫を残す。雄同士は雌が存在する巣穴をめぐって争う行動を示すが,体のサイズが大きい雄ほど,巣穴の中で雌と長く同居し,何度も交尾をする傾向があることがわかった。量的遺伝解析(半兄弟分析)により,体のサイズには遺伝的変異があることが明らかになったので,巣穴を防衛する能力が高い(=大きい)雄とよく交尾することで,雌の側も子供の質(体サイズ)の向上という利益を得ている可能性が示された。この知見は,近年,進化生態学分野で議論されているGood sperm仮説の図式に合致し,実証例の1つとなる。
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[Publications] Yoshitaka Kamimura: "Effects of broken male intromittent organs on the sperm storage capacity of female earwigs, Euborellia plebeja"Journal of Ethology. 21. 29-35 (2003)
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[Publications] Yoshitaka Kamimura: "Effects of repeated mating and polyandry on the fecundity, fertility, and maternal behaviour of female earwigs, Euborellia plebeja"Animal Behaviour. 65. 205-214 (2003)
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[Publications] 上村 佳孝: "ハサミムシ類の交尾器の形態と交尾行動の左右性"昆虫と自然. 38(4). 42-45 (2003)