Research Abstract |
昨年に引き続いて,北海道大学農学部附属苫小牧演習林の広葉樹林および針葉樹林,同天塩演習林の針葉樹林およびササ草地において,土壌ー植物系における窒素,硫黄その他無機元素の現存量,循環ならびに収支を測定し,酸性降下物の影響について考察した. 苫小枚における観測結果では,降雨,林内雨,土壌溶液の性質については,昨年度とほぼ同様の傾向を確認できた.針葉樹林と広葉樹林の硫黄の現存量と循環を集計した結果,針葉樹林は着葉期間が長いこと,樹冠の形態が複雑なことなどのために,広葉樹林よりも明らかに多くの硫黄の負荷を受けていること,林木地上部現存量の約30%に相当する硫黄が循環していること,過剰な酸のインプットによって土壌ー植物系の硫黄循環が加速されていることなどが示された.生態系の硫黄プ-ルとしては,土壌が最も大きく年間循環量の約20倍の蓄積を有する.また,土壌ー植物系全体としての硫黄収支はわずかにプラスになり,硫黄は土壌ー植物系の内部に蓄積される傾向にあることが再確認された. 天塩における観測結果にも,昨年度と同様の傾向が確認された.酸物質の負荷は,苫小牧に比べて明らかに少なく,林内雨による無機態窒素の土壌へのインプット量は,無雪期間について約5kgN/ha,硫黄のそれは21kgS/haと推定された.土壌中の物質移動は,きわめて不均一で,現在の方法では,溶脱量を把握することは困難なことが明らかになった. 両地点に苗木を置き,降雨を遮断して乾性降下物量を測定した結果,苫小牧の硫黄,窒素降下量は,天塩のそれの約3倍に達することがわかった.また,苫小牧の乾性降下物量は,苗木の葉面積,大気のSO_2,NO_x濃度および無降雨日数と密接な関係にあることが示唆された.さらに,モデル実験によって測定した苗木内部からの硫黄溶出量は,総沈着量の約10%に達し,それについての補正が必要と考えられた.
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