Research Abstract |
臨床的研究としては,脳血管障害患者でMRI検査で脳幹部に病変のある27例を,脳幹部単独病変6例と他病変合併21例に分け,脳幹部に病変がなかった67例を対照とし,排尿症状と下部尿路機能検査成績を比較検討した.脳幹部単独例の症状は頻尿50%,尿失禁33%,排尿困難88%,他病変合併例は頻尿57%,尿失禁29%,排尿困難81%で排尿困難のが多かったが,脳幹部正常例は頻尿67%,尿失禁61%,排尿困難45%と頻尿や尿失禁が多かった.下部尿路機能は,脳幹部単独例と他病変合併例では低活動性膀胱が50%と38%であったが,脳幹部正常例では低活動性膀胱は15%で,60%が過活動性膀胱だった.病変が橋背側部の両側にある例は低活動性膀胱を示したが,片側病変例は正常機能を示した.また,橋腹側に病変がある例では過活動性膀胱が多かった.以上の臨床成績は,吻側部橋背外側領域に排尿中枢があり,その腹側や腹外部に排尿抑制領域があるいう動物実験結果を裏付けるものである. 実験的研究として,ネコで吻側橋網様核にcarbachol,noradrenaline GABA,enkephlinを100mM微量注入し下部尿路機能に及ぼす各薬剤の効果を検討した.carbacholは膀胱と外尿道括約筋の両方の活動を抑制した.noradrenalineとGABAは膀胱容量を減少させたが,enkephalinでは有意な変化がなかった.一方,イヌで中枢性筋弦緩剤inaperisone(0.1〜1.0mg/kg)を静注すると,膀胱収縮圧や残尿量は変化しなかったが膀胱容量が増加し,律動性等容性膀胱収縮の出現が抑制された.ネコで,inaperisoneの橋での作用部位を検討したところ,青斑下核への注入により膀胱容量が増加した.また,橋排尿中枢を電気刺激すると,膀胱の状態に関わらずに内尿道括約筋の弛緩が誘発された.橋排尿中枢は,これまで報告してきたように膀胱と外尿道括約筋の協調運動を調節するだけではなく,内尿道括約筋の活郎をも調節していることが分かった.
|