1990 Fiscal Year Annual Research Report
人格の同一性(Personal Identity)の基準
Project/Area Number |
02610003
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木曾 好能 京都大学, 文学部, 教授 (40025060)
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Keywords | 人格の同一性 / 人格 / 同一性 / 個体 |
Research Abstract |
本研究は、人格の同一性の基準を解明するために、最初に、人格の同一性の必要条件として、生物個体としての同一性である人間身体の同一性と、意識の連続性との、両者を考えることから出発した。その際、ヒトという生物個体としての同一性の基準が必ずしも人格の同一性の基準と一致するわけではないと、暗に考えていた。例えば、何らかの障害によって植物状態にある人間のような場合、植物的機能が保持している限り、生物としての同一性を保持するのであり、また。1848年に事故による脳損傷のために人格が激変したフィニアス・ゲイジ(Phineas P.Gage)のような場合には、人格の同一性が失われても、動物的機能が保持される限り、動物個体としての同一性は保持されている、というように考えていた。しかし、研究の結果、このような考え方が成り立たないことが判明した。なるほど、植物的機能(生物的機能)、動物的機能、人間的機能、人格的機能は、相互に異なるものである。しかし、これらは、生物個体の具体的現実的な活動から種々の側面を捨象することによって得られた抽象的な機能にほかならない。或る生物が一個の完全な生物であるためには、それはどれが一つの生物種に属する個体であり、しかもその種の完全な個体でなければならない。すなわち、或る生物が一個の完全な生物であるためには、それは植物か動物か菌類のどれかに属する完全な個体でなければならず、それが一個の完全な動物であるためには、どれが一つの動物種に属する完全な個体でなければならず、ヒトという種に属するとすれば、それは一個の完全なヒトでなければならず、それが一個の完全なヒトであるためには、それは完全な人格の同一性を備えていなければならないのである。それゆえ、植物状態にある人間や、単なる動物状態にある人間は、それぞれ生物あるいは動物として、不完全な同一性しかもたない、と考えられなければならない。
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Research Products
(1 results)